2012年9月5日水曜日

2012 INDYCAR レース アナリシス:R14 グランプリ・オブ・ボルティモア その2 態勢の立て直しに成功したライアン・ハンター-レイ

シーズン最多の4勝目をハンター‐レイが挙げた。精神的安定度を取り戻したその裏には何があったのか?? Photo:INDYCAR LAT USA
 醜態さらした前戦から一転、謙虚な姿勢を取り戻したハンター‐レイ

 ライアン・ハンター-レイ(アンドレッティ・オートスポート)=RHRは第13戦ソノマで3位を走っていたレース終盤、アレックス・タグリアーニ(ブライアン・ハータ・オートスポート)にヒットされてスピンし、ウィル・パワー(チーム・ペンスキー)に大きくポイント差を広げられた。表彰台フィニッシュを逃して彼はプッツン。リスタート後にまったく無関係のEJ・ビソ(KVレーシング・テクノロジー)を突き飛ばし、ゴール下の後にはテレビのインタビューでタグリアーニを大馬鹿呼ばわりしていた。前々週のミッド・オハイオでエンジンにトラブルに遭い、2レース続けて上位フィニッシュを逃したんでキレちゃったんだろうが、RHRの履歴を考えれば他人様のことを非難する資格なんかない。ましてや、八つ当たりのビソ突き飛ばし行為は「列の最後尾へ」なんて甘いペナルティで済むもんじゃない。数レースの出場停止を言い渡されても文句を言えない悪行だった。少なくとも、半年とか1年の執行猶予つきで彼は監視下に置かれるべきと思う。
 それが、ソノマの翌週のボルティモア戦を迎えてみると、RHRは自分の行為を深く反省していたようだった。「まだチャンスはある。この状況は覆せる」とコメントは真摯なものになっており、冷静にチャンピオン争いに臨む姿となっていた。自らの不運を嘆いて喚き散らし、ミスをした相手を口汚く罵っていたあの男が……。


的確だったマイケル・アンドレッティの指示
対するペンスキーはまたも裏目に


 RHRも、彼がタイトルを争っているパワーも、レースで不運に遭遇するケースは確かに少なくない。しかし、アンドレッティ・オートスポートのオーナー、マイケルの現役時代と比べたら、彼らなんてまだまだ幸運な方だ。そのマイケルがソノマでのレースの後、あるいはボルティモア入りした時、RHRに何かを言葉をかけたのかもしれない。とくとくと誰かを諭すようなタイプではないマイケルだけれど、不運を跳ね退けて歴代3位にランクされる42勝を挙げたドライバーの言葉には十分な重みがあるはずだ。
 そして、RHRのピットで陣頭指揮を執っているマイケルはレース中に雨が降り出した時、「タイトルを獲りに行く。そのためにはパワーと同じ作戦を選んでいてはダメだ。チャンピオンになるためにここはスリックで行く」と無線でドライバーに告げたという。走っている当人にタイヤチョイスを相談するのではなく、スリックでのステイアウトを命じたのだった。RHRはレイン・タイヤへのスイッチの方が妥当な作戦と考えていたが、マイケルが攻めの作戦へと舵を切り、それは見事的中した。対するパワー&ティム・シンドリック(ペンスキー・レーシング社長)のコンビネーションは、このところ作戦がことごとく外れている。最終戦フォンタナはどうなる??


2012 INDYCAR レース・アナリシス R14 グランプリ・オブ・ボルティモア その1 人気のイベントに水を差したインディーカーのプロフェッショナリズムの欠如 

ボー・バーフィールド自ら初日の仮設シケイン設置を手伝うことに。Photo:INDYCAR LAT USA

インディーカーが救済して開催にこぎつけたイベントだったが
 
 ボルティモアのダウンタウンを使ったレースは初めてだった去年から大盛況だった。しかし、プロモーターはレースを放り出した。レース開催地である市とのモメゴトがあったりしたからだ。「首都ワシントンDC近郊の、大きなマーケットでのレースは極めて重要」。そう考えたインディーカーは、世間に広く名の知れているチーム・オーナーで、イベント・プロモーターとしての活動も活発化させているマイケル・アンドレッティを広告塔に仕立て上げ、救済に全力投球した。ミルウォーキーとまったく同じパターンだ。おかげで盛り上がった新イベントがたった1回だけで消滅することは避けられた。
 ただ、グランプリ・オブ・ボルティモアに関して残念だったのは、レースといういちばん肝心なところが、つまりはシリーズを主催するインディーカーのプロフェッショナリズムの欠如が目立ってしまっていた点だった。

今年のウリだったシケイン撤廃のストレートは半日で終了

 
 「オーバーテイクを増やし、ファンに喜んでもらいたい」。インディーカーが拘るそのコンセプトはよくわかる。大賛成でもある。しかし、「今年はシケイン撤廃!」と大々的に宣伝をしておきながら、金曜に走り出した途端に「やっぱりシケインがないと危険」となったのにはアキレた。カッコ悪過ぎ。インディーカーの競技担当社長のボー・バーフィルドは、「去年、シケインを通過できずにまっすぐハイスピードのままシケイン部分を突っ切ったドライバーたちが、”ダイジョブだと思う”と証言した」とか、「去年から今年で路面電車の線路部分の形状が大きく変わったのだろう」などと説明していたが、AJ・アルメンディンガーの薬物疑惑並の説得力の低さだった。プラクティス1は全ドライバーが走る前に早めに切り上げられ、プラクティス2は遅延&走行時間が半分に縮小、サポート・レースの走行もストップさせて路面を削る作業が数時間行なわれた後、結局は醜いタイヤを積み上げた仮設シケイン設置。3デイ・イベントの初日はかなり空虚な1日になってしまっていた。
 2年前のサン・パウロ初開催の時も、「サンバ会場の路面が滑り過ぎて危険」と判明、グラインダーでツルツルをザラザラに換える作業が夜を徹して行なわれた。インディーカー・シリーズは、自分たちのマシンがどういうコースを必要としてるかをちゃんと把握してないの? コース設営のコンサルト会社なんてもんを雇っているが、彼らはまるでプロじゃないってこと。即刻お払い箱にして欲しい。今回の件に関しちゃ損害賠償だって請求できるぐらいと思う。おそらく、現地に赴いての調査なんて、ほとんどしてないってことなんだろうから。
 

こちらがくだんのフラッグマーシャル氏。写真はすでに勝負あった最後のリスタート。問題のリスタートはこの前のリスタートだ。Photo:INDYCAR LAT USA
レースの勝敗を分けた不明朗なリスタート
その責任はフラッグマーシャルにあり


 肝心のレースでは、スターターがグリーンフラッグを振るタイミングを心得ていなかった。毎度々々早めに振っていた彼(インディーカーの職員)は、終盤のリスタートでそれがさらに早まっていた印象だった。バーフィールドも、あのスターターのタイミングでオッケーだと捉えていたとうことなんだろう、遅らせる指示は出さなかったようだ。
 隊列の整っていないバラバラのスタートは、ファンに対する裏切り行為だと思う。キッチリ2台ずつが並んで、前後のマシン間隔も揃ったキレイな状態でグリーン! 一斉に加速し、ターン1に塊で到達してブレーキング競争、というのをみんな見たいんだから。そういうレースにできるよう、シリーズもドライバーも全力を尽くして欲しい。
 終盤、トップを走っていたライアン・ブリスコー(チーム・ペンスキー)は、2番手のライアン・ハンター-レイ(アンドレッティ・オートスポート)が横に並び、隊列が整うまで加速を待った(今どき珍しい人の好さだ。私は嫌いじゃない。先輩チームメイトのエリオ・カストロネベスだったら、2位がシケインにいる間に加速をし始めちゃうだろうに)。ところが、スターターの方は隊列なんぞに構っちゃいなかった。グリーンフラッグだけに注目していたハンター-レイ(こういうのをスマートと呼ぶ人もいる)が加速で優り、ブリスコーは2位フィニッシュでハンター-レイとオフィシャルの両方に対して不満を唱えることになった。ブリスコーに強く肩入れしたいのではない。彼の誠実さは高く評価するけれど。私が残念なのは、あのいちばん大事なスタートが、今年のボルティモア戦でいちばんバラバラな、見た目も汚いスタートになっていたところ。もうブリスコーはプッシュ・トゥ・パスの残りがゼロで、ハンター-レイは19秒とか残していたから、隊列が整ってからのグリーンフラッグでもハンター-レイが前に出ていた可能性は高い。それでもブリスコーはキッチリ隊列が整ってのスタートになるのがフェアだと考え、行動していた。実に潔い。
 そもそも、シケイン設置で2台が並んだ隊列になるのは4列目ぐらいまでになっていた。9番手のドライバーぐらいからはシケイン通過中にグリーンになっちゃってたのだ。こういう事態を避けるには、シケインとコントロール・ラインの距離をもっともっと離すしかない。来年はそういう改善がされていることを望みたい。これはロング・ビーチにも言えること。ヘアピンをまだ立ち上がっていないマシンが半分以上いる(彼らはほとんど止まっちゃうぐらいに遅いスピード)うちにトップ・グループは一斉に加速しちゃうなんて、フェアじゃなさ過ぎる。悪しき伝統は変えてかないと。

2012年9月3日月曜日

2012 INDYCAR 佐藤琢磨コメント75 R14 グランプリ・オブ・ボルティモア 決勝「トップを走っている限り抜かれる気はしてなかったから、トップを死守する自信はありました。作戦的にもうまく行くと思ってたし」

リスタートからトップを快走する佐藤琢磨。後続を7秒まで引き離したが……。Photo:INDYCAR LAT USA
 R14 ボルティモア・グランプリ
ボルティモア市街地コース
2.04マイル(=約3.282㎞)×75周
 

決勝 21位 50周走行リタイヤ

雨を味方につけ、的確なレース戦略で
トップを快走した琢磨だったが……

 2戦連続で後方には1台しかいないグリッドからスタート。佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)の今シーズンは、ウィル・パワー(チーム・ペンスキー)やライアン・ハンター-レイ(アンドレッティ・オートスポート)と変わらない不運に見舞われている。
ボルティモアでのレース、琢磨は24周でトップに立った。ピット・タイミングの良さ、タイヤ戦略の的確さ、濡れた路面での優れたドライビング、リスタートの巧さで2位を7秒も突き放したほどだった。しかし、結果はトラブル発生で失速。レース途中でマシンを降りるしかなかった。


「チームが無線でウェットかドライかと聞いて来たけど
僕はもうドライしかないと思ってた」

Jack Amano(以下――):雨に対する作戦が成功し、トップ争いに加わりました。トップ10はもちろん、トップ5も十分可能な戦いになっていましたね!

佐藤琢磨:もっと上だよ。グリーンになる周にピットに飛び込んだ作戦はかなり無謀にも思えたけど、チームを信じてた。今日はピットストップのシークエンスを変えないと前に行くことはできないと思ってた。順当に同じ戦略で順位を上げて行くのは難しいと思ってたんだけど、最初のピットストップ以降、雨が落ちて来たのは僕らにとってすごくプラスでしたね。

――雨が降り出して、コースはどういうコンディションになってたんですか?

佐藤琢磨:だんだん雨脚が強くなっていたんだけど、コースの表と裏で全然コンディションが違ってた。ある部分は乾いてて、ある部分はすごくウェットだった。メインストレートのシケイン手前あたりからはものすごく濡れていて、走るのはかなり難しくなってました。チームが無線でウェットかドライかと聞いて来たけど、僕はもうドライしかないと思ってた。レーダーはどうだ? って聞いて、雨はすぐ止むとも聞いたので、だったらもうドライのまま乗り切るのがいいだろうって考えた。

――ウェットの方が良い状況もあったのでは?

佐藤琢磨:一時、確かにウェットの方が速そうな状態になってたけど、それじゃ絶対に僕らは勝てないって考えてたんで、ドライで走り続けることにした。それもあって自分の前から10台ぐらいがいなくなって、一気に上位にポジションを上げて、リスタートでパスして、次のリスタートでまたパスをしてレースをリードすることになりました。

――後続を7秒以上リードしてトップを走りました。

佐藤琢磨:あの頃からは燃費セーブもして、本当に順調に、あと1回のストップでゴールまで行けることになってました。レースが終盤に入ってからも燃料についてはかなり自信のある戦いができていました。優勝も見えていたレースになってましたね。

「フューエルセーブを始めたあたりからエンジンが息をつき始めました」

――トップで迎えたリスタートで5番手に落ちたシーンは、もうマシントラブルが始まっていたということですか?

佐藤琢磨:そう。その前のフューエルセーブを始めたあたりからだったと思います。燃費を抑えた走りをしている時、何かスロットルがおかしいと感じて、エンジンが息つきを始めた。でも、まだその時点ではよくわからなかったですね、燃料セーブしてるからかな? とも考えてた。それが、リスタートの時、2速の時点でもう全然パワーがついて来なかった。アクセルを踏んだのに失速してて、バーッと一気に4台ぐらいに抜かれた。その後は、回転が落ちるヘアピンとかでアクセルを踏んでもまったく反応しなくなって、何とか走り続けてたんですけど、だんだん悪くなって行きました。警告ランプが点いてもリセットボタンを押せば殺せるんです。でも、3秒おきに「フューエルプレッシャーが低い」って盛んにメッセージが出てて、最後はギヤもセレクトできない、ブリッピングもできないぐらいの燃圧になっちゃって、ストップせざるを得なかった。

――今朝のウォームアップセッションの後、エンジン周辺の部品をかなり大掛かりな作業で交換してましたが?

佐藤琢磨:そうです。昨日から今日にかけてエンジン交換をして、補器類も換えました。でも、今朝のウォームアップで止まっちゃったのも燃圧のトラブルによってでした。それでセッションの後、また部品を交換したんですけど、同じトラブルが出てしまった。本当のトラブルの原因はまだわからないんですが、フューエルポンプなどの燃圧に関わるエンジン補器類のトラブルであったことは間違いないと思います。

――決勝でのマシンの仕上がりはどう感じていましたか?

佐藤琢磨:ドライで勝負をできてないので、正直言ってわからない。でも、悪くはなかったと思います。路面が濡れている状態では引き離せたし。ただ、リードをしてからはフューエル・セーブに入っていたし、最後のドライの状態ではエンジンがもう咳き込んでいたので……。レース終盤が厳しい戦いになるのはわかっていた。それでも、トップを走っている限り抜かれる気はしてなかったから、トップを死守する自信はありました。作戦的にもうまく行くと思ってたし。

「最終戦では、少しでもマシンがコンペティティブになるようにがんばります」

――最終戦フォンタナに向け、テストをしたんですよね。2マイルオーバルは初めてですね?

佐藤琢磨:インディーとはまったく違う。なんだろう? カンザスともてぎぐらいの感じもある。もてぎぐらいのバンク角なのに、でもDシェイプなのでカンザスっぽくもある。そこをインディー500と同じエアロパッケージで走るから滅茶苦茶ダウンフォースが少なくて、コースはすごいバンピーでしたね。テストでは1回も1周を全開で回れなかった。

――インディー500的なレースというよりは、テキサス的なレースになるってことですか?

佐藤琢磨:そう、テキサス的。ちょっとリーグ(インディーカー)はダウンフォースを落とし過ぎだと思いますね。幾つかの空力効率関連のパーツを取り外してるんですよね。例えばディフューザーの中のフィンだとか整流板を。そういうのを全部取っ払うことでとんでもなくダウンフォースが落ちるんですよ。それらを装着してニューガーデンとかパジェノーはテストをしてて、僕らは装着しないという担当で、彼らはタイヤのデグラデーションなどを見ているようでした。

――テストの段階では、まだフォンタナ向けのエアロパッケージが確定していなかったんですね?

佐藤琢磨:はい。最終戦に向けてまだエアロパッケージは確定してないですね。ブルテンも出てないし。次の12日のテストでの結果をもって、最終戦のウィークエンドの始まる木曜日に発表じゃないですかね。

――健闘を期待しています。

佐藤琢磨:500マイルと長いレースですしね。僕らの場合、走り始めはまだクルマができてないだろうと思います。テストをした時間が少なかったし、インディアナポリスとは全然違ったから。同じような500マイルレースといっても、テキサスのようなローダウンフォースでの戦いになるので。それを考えると、僕らにはまだものすごい量の仕事が待ってる感じですね。それを片づけて、ちょっとでもコンペティティブになるように頑張ります。あとはエンジン交換によるペナルティがあるし、フォンタナではさらにエンジンを決勝前に交換するって話にもなっています。

――最終戦でも新スペックが出て来るということですか?

佐藤琢磨:ホンダ勢はそうなると思います。噂によると、シボレーもそうなんじゃないかってことです。

――じゃ、ロータスがポールポジション・スタートに?

佐藤琢磨:そうかもしれない。 フォンタナはグリッドはあまり関係ないと思いますよ。

――テストではかなりの周回数をこなせたんですか?

佐藤琢磨:いや、あんまり。風も強かったし。ある程度は走れたけど、1台で走るだけで背一杯だった。それでも全開で行けなかったから、2台で近寄りたくなんか絶対になかったですね。いつ飛んでくかわからない感じだった。

――テストは1日だけ?

佐藤琢磨:そうでした。他のチームはまたテストに行くみたいですよ。ウチは行けない事情が色々あるようですけど。

――最終戦、高速オーバルでの激しいバトル、そして上位フィニッシュを楽しみにしています!

2012 INDYCAR レポート:R14 グランプリ・オブ・ボルティモア 決勝その2 最速でも勝てないウィル・パワー、ポイントリードは17点へと縮まった

ポールポジションからレースをリードしたパワーだったが。Photo:INDYCAR LAT USA
 気まぐれなボルティモアの雨がパワーから勝利を遠ざけた
 
 またしても勝利はウィル・パワー(チーム・ペンスキー)の手からこぼれ落ちた。ポールポジションからレースをリードしたパワーだったが、彼をその座から引き摺り下ろしたのは気まぐれな雨だった。
 スタート前から心配されていた雨は、6周目には早くもポツポツと降り始めた。ところが、その雨は路面を急激に濡らす強さではなかった。コースの一部分が完全に滑り易いコンディションとなったものの、コース全体はウェットコンディションにはならない、実に奇妙な状況だった。レインタイヤに換えるか、スリックのまま走り続けるか、その判断は非常に難しかった。
 それでも路面は徐々にだが着実に濡れて行った。そこへフルコースコーションが重ねて出された。7周目にはエド・カーペンター(エド・カーペンター・レーシング)がクラッシュし、その後には多重アクシデントも発生した。そして19周目、マルコ・アンドレッティ(アンドレッティ・オートスポート)のアクシデントで3回目のイエローが出された時、トップを行くパワーがピットロードへとステアリングを切った。「レインタイヤに換えるか、スリックのまま行くか、その判断は本当に難しかった。そこへ無線交信の混乱も重なった。自分とピットが同時に話してしまったんだ。僕はピットに入ることとし、レインタイヤにスイッチした」。
 この決断が失敗だった。結果論だが、それは紛れもない事実だ。パワーはスコット・ディクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)やセバスチャン・ブルデイ(ドラゴン・レーシング)を従えてピットインし、スリックで走り続けるリスクを冒したライアン・ハンター-レイ(アンドレッティ・オートスポート)にトップの座を明け渡した。ランキング2位のハンター-レイがこの展開を完璧に利用してトップに立ったのは驚きだった。

最後のリスタートでもポジションダウン


 7番手まで下がったパワーは、すぐにまたスリックへと戻すためのピットストップを行なう羽目に陥った。雨は考えらたより遥かに短時間で止んだのだ。53周目にパワーはトップに復帰したが、それはハンター-レイたちとのピットタイミングのズレによって巡って来たトップでしかなかった。
 57周目、パワーはピットに入り、順位は7位へと逆戻り。そこから5位まで挽回。ところが、ゴールを目前にルーベンス・バリケロ(KVレーシング・テクノロジー)とオリオール・セルビア(パンサー-ドレイヤー・レインボールド・レーシング)にパスされ、セルビアだけは辛うじて抜き返し、6位でゴールを迎えた。
 パワーが不運だったのは、レース終盤にイエローが重なった上、オフィシャルの不手際でアンダーイエローの周回数が多くなったことからライアン・ブリスコー(チーム・ペンスキー)とディクソンに給油の必要がなくなった点だった。彼らがスプラッシュのためにピットに向かっていれば、パワーは4位でゴールできていたはずだった。しかし、彼は6位でゴールすることとなったのだ。

「まだポイントを保っているのでハッピーだ」とパワー

 
 エドモントンではエンジン交換のペナルティで後方スタートとなり、3位まで追い上げるのがやっとだった。ミド‐オハイオではスタートから57周をリードしながら、ピットの位置の悪さから最後の最後で勝利を手放した。ソノマではフルコースコーションの出されるタイミングが最悪で、ここでも最多リードラップを記録したが優勝はチームメイトの手に渡った。そして今回、彼を勝利から遠ざけたのは天気、そしてピットの判断だった。「毎週々々、最速のマシンを手にしているのに勝てない。最速も最速、ライバルたちを突き放す速さを見せているのに」とパワーは悔しがった。「シーズン序盤に3連勝した時、そのままシーズン終盤まで勝てないままで行くなんて考えもしなかったよ」とも彼は語った。
 残るは最終戦のフォンタナだけとなった。パワーは、「最後のレースではとにかくゴールまで走り切りたい。そして、タイトル獲得でシーズン終了としたい。まだポイントリードを保っているんだからハッピーだ。状況は悪くない。今日のレースがこういうパターンになる可能性は考えていた。勝てなかったのは悔しいが、タイトルは簡単になんか獲れないものなんだ。これからもベストを尽くし続け、最後の最後まで戦い抜くだけ」と努めて明るく語った。

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