2019年12月11日水曜日

2019 INDYCAR News 12月11日::ロジャー・ペンスキーがIMSとNTTインディーカー・シリーズのオーナーに

73年続いたハルマン家のインディーカー運営とIMS所有も終焉

 ロジャー・ペンスキーのペンスキー・コーポレーションがインディアナポリス・モーター・スピードウェイ(IMS)とNTTインディーカー・シリーズを買った。第二次大戦直後に閉鎖の危機に晒されていたIMSを購入、インディー500を世界最大のレース・イベントに育て上げたトニー・ハルマンとその一家による所有&運営は73年間で終焉、インディー500優勝18回(現在2連勝中)=のインディカー最強チームのオーナーがスピードウェイとシリーズの両方を傘下に収めることになったわけだ。

「儲からないし、売っちゃいましょう」

 1978年に Championship Auto Racing Teams, Inc.=CARTというチーム・オーナーの集まった会社を作ってハルマン家系のインディーカー・シリーズに対抗、新シリーズを設立したのがペンスキーを中心とするグループだった。そして1996年、今度はハルマン家の三世=トニー・ジョージがインディー・レーシング・リーグを設立し、インディー500をCARTシリーズから奪い取った。アメリカのトップ・オープン・ホイールは再度分裂させられることとなったのだ。ジョージ(ハルマン夫人側の姓)の時代は暫く続いたが、彼は散財をし過ぎて家族から経営権を剥奪され、その家族は「儲からないし、売っちゃいましょう」ということになったようだ。

NASCAR買収の噂もあるペンスキー

 ペンスキーにはNASCAR買収の噂もある。インディーカー以上の人気を誇るストックカー・シリーズの運営会社であるNASCARは1948年の創業で、デイトナ500を開催するデイトナ・インターナショナル・スピードウェイを筆頭に全米のあちこちにサーキットを多数所有(=シリーズ最大のレースであるデイトナ500のプロモーターでもある)、スポーツカー・シリーズを運営するIMSAも支配下に置く企業だが、現在は大きな岐路に立たされている。日本には”三代目は身上を潰す”という言葉があるが、NASCARもインディーもまさにそれ。お殿様的に振る舞って来たジョージだが、これでスピードウェイとシリーズにほとんど影響力を持たない立場になり、姉妹たちも同様。今後は彼らが雇い入れた経営陣=マーク・マイルズ(ハルマン&カンパニー/CEO)やジェイ・フライ(インディーカー/社長)がペンスキーの思いや計画を実現するスタッフへと取って代わられることになるのだろう。

問われるペンスキーのリーダーシップ
過去のコース所有時は施設拡充には熱心ではなかったが……


 インディカーシリーズを分裂、衰退させた張本人であるジョージだが、彼のリーダーシップも悪いことばかりではなかった。一族のお金をふんだんに、惜しみなく使ってスピードウェイの施設を拡充し、ドライバー及びクルー、そしてファンの安全性を向上させた貢献度はとても大きかった。ロジャー・ペンスキーの下、そのトレンドはどこまで保たれるのか?
ビジネスとして成り立たせつつ設備を充実させて行くことは簡単ではない。ミシガンなど幾つかのコースを所有、運営していた頃、ペンスキーはそんなに施設拡充に積極的ではなかった。

シリーズのお手盛り感を払拭し、積極的な攻めの姿勢を期待
しかし最強チームがシリーズを所有することへの疑念も??


 シリーズがペンスキー所有となるメリットは世間における信頼度だろう。それは間違いなくアップする。しかも大幅に。ハルマン家がオーナーでは、いつどんな気紛れでルールや方針が変わってしまうかわからない。“ウチには投資をしてもらうだけの価値がある”ぐらいのお公家さん体質でもあったので、スポンサーも”こんなはずじゃ……”ということが多かったはずだ。今までは、そうしたリスクを覚悟の上でインディーカー、インディー500に多くの企業が関わって来ていた。ペンスキーの指導の下、イベントもシリーズも体質が改善されれば、価値が向上する。ずっと払拭され切ることのなかったアマチュア感、理不尽さ、お手盛り感がなくなることももちろん期待される。
 9月でシーズンを終了させてアメリカン・フットボールとの競合を避ける経営戦略は、守りに入り回り過ぎている。マイルズの方針だが、それはハルマン家に”利益を出すように”と言われて来たから……という背景があってのもの。より魅力的なレース開催地への進出を積極的に行う攻めの姿勢が新体制には期待される。海外イベントの復活も検討されるべきだろう。
 ペンスキー体制となるデメリットもある。シリーズを所有する者が1出場チームのオーナーでもある場合、公正が保たれるかが心配される。スチュアードたちは、ペンスキーに雇われながら、ペンスキーに対して厳しい判断や裁定を下すことができるんだろうか? ペンスキーは強大な権限を彼らに与えることができるのだろうか? 忖度が幅を利かせるのでは? という懸念は拭えない。
 ペンスキーはプロモーターでもある。現カレンダーではデトロイトGPが彼のイベントだが、開催がインディー500直後の週末なのは、その権利をテキサス・モーター・スピードウェイから奪い取ったもの。シリーズ所有者となったら更なる我田引水も当然可能になる。ここでも公正さをいかにして保つかが課題になる。

果たしてペンスキーのインディーカーとIMSの運営方針は?
 AJ・フォイト、マリオ・アンドレッティ、マイケル・アンドレッティ、チップ・ガナッシ、ボビー・レイホールらがペンスキーによる新体制を歓迎、称賛する声明やコメントを発表した。ペンスキー体制でなら、ルールなどを含めた将来の不透明さが大幅に減少するだろうとオーナーたちは考えているのだろう。しかし、もうロジャー・ペンスキーは80歳を越えている。彼のリーダーシップがシリーズやスピードウェイにどこまで浸透し、どれだけの仕事を成し遂げられるかはわからない。後を息子たちに引き継ぐケースも考えられるが、そうなるとハルマン家同様の同族企業となって、またも負のスパイラルに陥る可能性がある。どこまでしっかりした組織を作り、残せるか……。現在のインディーカー・シリーズ、いまのIMSに対するロジャー・ペンスキーの考えをもっと知りたい。彼が何に満足していて、何に不満を感じ、何が不足していると見ているのか?
どの部分を強化、伸長させて行くのか? それらは来シーズンの開幕後に徐々に明らかになって行くだろう。

1 件のコメント:

  1. これまでハルマン一族が登場していたインディ500の「スタート・オア・エンジン!!」のかけ声、今季からは誰がするんでしょうか??

    やはりペンスキー氏ですか??

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