2012年9月5日水曜日

2012 INDYCAR レース アナリシス:R14 グランプリ・オブ・ボルティモア その2 態勢の立て直しに成功したライアン・ハンター-レイ

シーズン最多の4勝目をハンター‐レイが挙げた。精神的安定度を取り戻したその裏には何があったのか?? Photo:INDYCAR LAT USA
 醜態さらした前戦から一転、謙虚な姿勢を取り戻したハンター‐レイ

 ライアン・ハンター-レイ(アンドレッティ・オートスポート)=RHRは第13戦ソノマで3位を走っていたレース終盤、アレックス・タグリアーニ(ブライアン・ハータ・オートスポート)にヒットされてスピンし、ウィル・パワー(チーム・ペンスキー)に大きくポイント差を広げられた。表彰台フィニッシュを逃して彼はプッツン。リスタート後にまったく無関係のEJ・ビソ(KVレーシング・テクノロジー)を突き飛ばし、ゴール下の後にはテレビのインタビューでタグリアーニを大馬鹿呼ばわりしていた。前々週のミッド・オハイオでエンジンにトラブルに遭い、2レース続けて上位フィニッシュを逃したんでキレちゃったんだろうが、RHRの履歴を考えれば他人様のことを非難する資格なんかない。ましてや、八つ当たりのビソ突き飛ばし行為は「列の最後尾へ」なんて甘いペナルティで済むもんじゃない。数レースの出場停止を言い渡されても文句を言えない悪行だった。少なくとも、半年とか1年の執行猶予つきで彼は監視下に置かれるべきと思う。
 それが、ソノマの翌週のボルティモア戦を迎えてみると、RHRは自分の行為を深く反省していたようだった。「まだチャンスはある。この状況は覆せる」とコメントは真摯なものになっており、冷静にチャンピオン争いに臨む姿となっていた。自らの不運を嘆いて喚き散らし、ミスをした相手を口汚く罵っていたあの男が……。


的確だったマイケル・アンドレッティの指示
対するペンスキーはまたも裏目に


 RHRも、彼がタイトルを争っているパワーも、レースで不運に遭遇するケースは確かに少なくない。しかし、アンドレッティ・オートスポートのオーナー、マイケルの現役時代と比べたら、彼らなんてまだまだ幸運な方だ。そのマイケルがソノマでのレースの後、あるいはボルティモア入りした時、RHRに何かを言葉をかけたのかもしれない。とくとくと誰かを諭すようなタイプではないマイケルだけれど、不運を跳ね退けて歴代3位にランクされる42勝を挙げたドライバーの言葉には十分な重みがあるはずだ。
 そして、RHRのピットで陣頭指揮を執っているマイケルはレース中に雨が降り出した時、「タイトルを獲りに行く。そのためにはパワーと同じ作戦を選んでいてはダメだ。チャンピオンになるためにここはスリックで行く」と無線でドライバーに告げたという。走っている当人にタイヤチョイスを相談するのではなく、スリックでのステイアウトを命じたのだった。RHRはレイン・タイヤへのスイッチの方が妥当な作戦と考えていたが、マイケルが攻めの作戦へと舵を切り、それは見事的中した。対するパワー&ティム・シンドリック(ペンスキー・レーシング社長)のコンビネーションは、このところ作戦がことごとく外れている。最終戦フォンタナはどうなる??


2012 INDYCAR レース・アナリシス R14 グランプリ・オブ・ボルティモア その1 人気のイベントに水を差したインディーカーのプロフェッショナリズムの欠如 

ボー・バーフィールド自ら初日の仮設シケイン設置を手伝うことに。Photo:INDYCAR LAT USA

インディーカーが救済して開催にこぎつけたイベントだったが
 
 ボルティモアのダウンタウンを使ったレースは初めてだった去年から大盛況だった。しかし、プロモーターはレースを放り出した。レース開催地である市とのモメゴトがあったりしたからだ。「首都ワシントンDC近郊の、大きなマーケットでのレースは極めて重要」。そう考えたインディーカーは、世間に広く名の知れているチーム・オーナーで、イベント・プロモーターとしての活動も活発化させているマイケル・アンドレッティを広告塔に仕立て上げ、救済に全力投球した。ミルウォーキーとまったく同じパターンだ。おかげで盛り上がった新イベントがたった1回だけで消滅することは避けられた。
 ただ、グランプリ・オブ・ボルティモアに関して残念だったのは、レースといういちばん肝心なところが、つまりはシリーズを主催するインディーカーのプロフェッショナリズムの欠如が目立ってしまっていた点だった。

今年のウリだったシケイン撤廃のストレートは半日で終了

 
 「オーバーテイクを増やし、ファンに喜んでもらいたい」。インディーカーが拘るそのコンセプトはよくわかる。大賛成でもある。しかし、「今年はシケイン撤廃!」と大々的に宣伝をしておきながら、金曜に走り出した途端に「やっぱりシケインがないと危険」となったのにはアキレた。カッコ悪過ぎ。インディーカーの競技担当社長のボー・バーフィルドは、「去年、シケインを通過できずにまっすぐハイスピードのままシケイン部分を突っ切ったドライバーたちが、”ダイジョブだと思う”と証言した」とか、「去年から今年で路面電車の線路部分の形状が大きく変わったのだろう」などと説明していたが、AJ・アルメンディンガーの薬物疑惑並の説得力の低さだった。プラクティス1は全ドライバーが走る前に早めに切り上げられ、プラクティス2は遅延&走行時間が半分に縮小、サポート・レースの走行もストップさせて路面を削る作業が数時間行なわれた後、結局は醜いタイヤを積み上げた仮設シケイン設置。3デイ・イベントの初日はかなり空虚な1日になってしまっていた。
 2年前のサン・パウロ初開催の時も、「サンバ会場の路面が滑り過ぎて危険」と判明、グラインダーでツルツルをザラザラに換える作業が夜を徹して行なわれた。インディーカー・シリーズは、自分たちのマシンがどういうコースを必要としてるかをちゃんと把握してないの? コース設営のコンサルト会社なんてもんを雇っているが、彼らはまるでプロじゃないってこと。即刻お払い箱にして欲しい。今回の件に関しちゃ損害賠償だって請求できるぐらいと思う。おそらく、現地に赴いての調査なんて、ほとんどしてないってことなんだろうから。
 

こちらがくだんのフラッグマーシャル氏。写真はすでに勝負あった最後のリスタート。問題のリスタートはこの前のリスタートだ。Photo:INDYCAR LAT USA
レースの勝敗を分けた不明朗なリスタート
その責任はフラッグマーシャルにあり


 肝心のレースでは、スターターがグリーンフラッグを振るタイミングを心得ていなかった。毎度々々早めに振っていた彼(インディーカーの職員)は、終盤のリスタートでそれがさらに早まっていた印象だった。バーフィールドも、あのスターターのタイミングでオッケーだと捉えていたとうことなんだろう、遅らせる指示は出さなかったようだ。
 隊列の整っていないバラバラのスタートは、ファンに対する裏切り行為だと思う。キッチリ2台ずつが並んで、前後のマシン間隔も揃ったキレイな状態でグリーン! 一斉に加速し、ターン1に塊で到達してブレーキング競争、というのをみんな見たいんだから。そういうレースにできるよう、シリーズもドライバーも全力を尽くして欲しい。
 終盤、トップを走っていたライアン・ブリスコー(チーム・ペンスキー)は、2番手のライアン・ハンター-レイ(アンドレッティ・オートスポート)が横に並び、隊列が整うまで加速を待った(今どき珍しい人の好さだ。私は嫌いじゃない。先輩チームメイトのエリオ・カストロネベスだったら、2位がシケインにいる間に加速をし始めちゃうだろうに)。ところが、スターターの方は隊列なんぞに構っちゃいなかった。グリーンフラッグだけに注目していたハンター-レイ(こういうのをスマートと呼ぶ人もいる)が加速で優り、ブリスコーは2位フィニッシュでハンター-レイとオフィシャルの両方に対して不満を唱えることになった。ブリスコーに強く肩入れしたいのではない。彼の誠実さは高く評価するけれど。私が残念なのは、あのいちばん大事なスタートが、今年のボルティモア戦でいちばんバラバラな、見た目も汚いスタートになっていたところ。もうブリスコーはプッシュ・トゥ・パスの残りがゼロで、ハンター-レイは19秒とか残していたから、隊列が整ってからのグリーンフラッグでもハンター-レイが前に出ていた可能性は高い。それでもブリスコーはキッチリ隊列が整ってのスタートになるのがフェアだと考え、行動していた。実に潔い。
 そもそも、シケイン設置で2台が並んだ隊列になるのは4列目ぐらいまでになっていた。9番手のドライバーぐらいからはシケイン通過中にグリーンになっちゃってたのだ。こういう事態を避けるには、シケインとコントロール・ラインの距離をもっともっと離すしかない。来年はそういう改善がされていることを望みたい。これはロング・ビーチにも言えること。ヘアピンをまだ立ち上がっていないマシンが半分以上いる(彼らはほとんど止まっちゃうぐらいに遅いスピード)うちにトップ・グループは一斉に加速しちゃうなんて、フェアじゃなさ過ぎる。悪しき伝統は変えてかないと。

2012年9月3日月曜日

2012 INDYCAR 佐藤琢磨コメント75 R14 グランプリ・オブ・ボルティモア 決勝「トップを走っている限り抜かれる気はしてなかったから、トップを死守する自信はありました。作戦的にもうまく行くと思ってたし」

リスタートからトップを快走する佐藤琢磨。後続を7秒まで引き離したが……。Photo:INDYCAR LAT USA
 R14 ボルティモア・グランプリ
ボルティモア市街地コース
2.04マイル(=約3.282㎞)×75周
 

決勝 21位 50周走行リタイヤ

雨を味方につけ、的確なレース戦略で
トップを快走した琢磨だったが……

 2戦連続で後方には1台しかいないグリッドからスタート。佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)の今シーズンは、ウィル・パワー(チーム・ペンスキー)やライアン・ハンター-レイ(アンドレッティ・オートスポート)と変わらない不運に見舞われている。
ボルティモアでのレース、琢磨は24周でトップに立った。ピット・タイミングの良さ、タイヤ戦略の的確さ、濡れた路面での優れたドライビング、リスタートの巧さで2位を7秒も突き放したほどだった。しかし、結果はトラブル発生で失速。レース途中でマシンを降りるしかなかった。


「チームが無線でウェットかドライかと聞いて来たけど
僕はもうドライしかないと思ってた」

Jack Amano(以下――):雨に対する作戦が成功し、トップ争いに加わりました。トップ10はもちろん、トップ5も十分可能な戦いになっていましたね!

佐藤琢磨:もっと上だよ。グリーンになる周にピットに飛び込んだ作戦はかなり無謀にも思えたけど、チームを信じてた。今日はピットストップのシークエンスを変えないと前に行くことはできないと思ってた。順当に同じ戦略で順位を上げて行くのは難しいと思ってたんだけど、最初のピットストップ以降、雨が落ちて来たのは僕らにとってすごくプラスでしたね。

――雨が降り出して、コースはどういうコンディションになってたんですか?

佐藤琢磨:だんだん雨脚が強くなっていたんだけど、コースの表と裏で全然コンディションが違ってた。ある部分は乾いてて、ある部分はすごくウェットだった。メインストレートのシケイン手前あたりからはものすごく濡れていて、走るのはかなり難しくなってました。チームが無線でウェットかドライかと聞いて来たけど、僕はもうドライしかないと思ってた。レーダーはどうだ? って聞いて、雨はすぐ止むとも聞いたので、だったらもうドライのまま乗り切るのがいいだろうって考えた。

――ウェットの方が良い状況もあったのでは?

佐藤琢磨:一時、確かにウェットの方が速そうな状態になってたけど、それじゃ絶対に僕らは勝てないって考えてたんで、ドライで走り続けることにした。それもあって自分の前から10台ぐらいがいなくなって、一気に上位にポジションを上げて、リスタートでパスして、次のリスタートでまたパスをしてレースをリードすることになりました。

――後続を7秒以上リードしてトップを走りました。

佐藤琢磨:あの頃からは燃費セーブもして、本当に順調に、あと1回のストップでゴールまで行けることになってました。レースが終盤に入ってからも燃料についてはかなり自信のある戦いができていました。優勝も見えていたレースになってましたね。

「フューエルセーブを始めたあたりからエンジンが息をつき始めました」

――トップで迎えたリスタートで5番手に落ちたシーンは、もうマシントラブルが始まっていたということですか?

佐藤琢磨:そう。その前のフューエルセーブを始めたあたりからだったと思います。燃費を抑えた走りをしている時、何かスロットルがおかしいと感じて、エンジンが息つきを始めた。でも、まだその時点ではよくわからなかったですね、燃料セーブしてるからかな? とも考えてた。それが、リスタートの時、2速の時点でもう全然パワーがついて来なかった。アクセルを踏んだのに失速してて、バーッと一気に4台ぐらいに抜かれた。その後は、回転が落ちるヘアピンとかでアクセルを踏んでもまったく反応しなくなって、何とか走り続けてたんですけど、だんだん悪くなって行きました。警告ランプが点いてもリセットボタンを押せば殺せるんです。でも、3秒おきに「フューエルプレッシャーが低い」って盛んにメッセージが出てて、最後はギヤもセレクトできない、ブリッピングもできないぐらいの燃圧になっちゃって、ストップせざるを得なかった。

――今朝のウォームアップセッションの後、エンジン周辺の部品をかなり大掛かりな作業で交換してましたが?

佐藤琢磨:そうです。昨日から今日にかけてエンジン交換をして、補器類も換えました。でも、今朝のウォームアップで止まっちゃったのも燃圧のトラブルによってでした。それでセッションの後、また部品を交換したんですけど、同じトラブルが出てしまった。本当のトラブルの原因はまだわからないんですが、フューエルポンプなどの燃圧に関わるエンジン補器類のトラブルであったことは間違いないと思います。

――決勝でのマシンの仕上がりはどう感じていましたか?

佐藤琢磨:ドライで勝負をできてないので、正直言ってわからない。でも、悪くはなかったと思います。路面が濡れている状態では引き離せたし。ただ、リードをしてからはフューエル・セーブに入っていたし、最後のドライの状態ではエンジンがもう咳き込んでいたので……。レース終盤が厳しい戦いになるのはわかっていた。それでも、トップを走っている限り抜かれる気はしてなかったから、トップを死守する自信はありました。作戦的にもうまく行くと思ってたし。

「最終戦では、少しでもマシンがコンペティティブになるようにがんばります」

――最終戦フォンタナに向け、テストをしたんですよね。2マイルオーバルは初めてですね?

佐藤琢磨:インディーとはまったく違う。なんだろう? カンザスともてぎぐらいの感じもある。もてぎぐらいのバンク角なのに、でもDシェイプなのでカンザスっぽくもある。そこをインディー500と同じエアロパッケージで走るから滅茶苦茶ダウンフォースが少なくて、コースはすごいバンピーでしたね。テストでは1回も1周を全開で回れなかった。

――インディー500的なレースというよりは、テキサス的なレースになるってことですか?

佐藤琢磨:そう、テキサス的。ちょっとリーグ(インディーカー)はダウンフォースを落とし過ぎだと思いますね。幾つかの空力効率関連のパーツを取り外してるんですよね。例えばディフューザーの中のフィンだとか整流板を。そういうのを全部取っ払うことでとんでもなくダウンフォースが落ちるんですよ。それらを装着してニューガーデンとかパジェノーはテストをしてて、僕らは装着しないという担当で、彼らはタイヤのデグラデーションなどを見ているようでした。

――テストの段階では、まだフォンタナ向けのエアロパッケージが確定していなかったんですね?

佐藤琢磨:はい。最終戦に向けてまだエアロパッケージは確定してないですね。ブルテンも出てないし。次の12日のテストでの結果をもって、最終戦のウィークエンドの始まる木曜日に発表じゃないですかね。

――健闘を期待しています。

佐藤琢磨:500マイルと長いレースですしね。僕らの場合、走り始めはまだクルマができてないだろうと思います。テストをした時間が少なかったし、インディアナポリスとは全然違ったから。同じような500マイルレースといっても、テキサスのようなローダウンフォースでの戦いになるので。それを考えると、僕らにはまだものすごい量の仕事が待ってる感じですね。それを片づけて、ちょっとでもコンペティティブになるように頑張ります。あとはエンジン交換によるペナルティがあるし、フォンタナではさらにエンジンを決勝前に交換するって話にもなっています。

――最終戦でも新スペックが出て来るということですか?

佐藤琢磨:ホンダ勢はそうなると思います。噂によると、シボレーもそうなんじゃないかってことです。

――じゃ、ロータスがポールポジション・スタートに?

佐藤琢磨:そうかもしれない。 フォンタナはグリッドはあまり関係ないと思いますよ。

――テストではかなりの周回数をこなせたんですか?

佐藤琢磨:いや、あんまり。風も強かったし。ある程度は走れたけど、1台で走るだけで背一杯だった。それでも全開で行けなかったから、2台で近寄りたくなんか絶対になかったですね。いつ飛んでくかわからない感じだった。

――テストは1日だけ?

佐藤琢磨:そうでした。他のチームはまたテストに行くみたいですよ。ウチは行けない事情が色々あるようですけど。

――最終戦、高速オーバルでの激しいバトル、そして上位フィニッシュを楽しみにしています!

2012 INDYCAR レポート:R14 グランプリ・オブ・ボルティモア 決勝その2 最速でも勝てないウィル・パワー、ポイントリードは17点へと縮まった

ポールポジションからレースをリードしたパワーだったが。Photo:INDYCAR LAT USA
 気まぐれなボルティモアの雨がパワーから勝利を遠ざけた
 
 またしても勝利はウィル・パワー(チーム・ペンスキー)の手からこぼれ落ちた。ポールポジションからレースをリードしたパワーだったが、彼をその座から引き摺り下ろしたのは気まぐれな雨だった。
 スタート前から心配されていた雨は、6周目には早くもポツポツと降り始めた。ところが、その雨は路面を急激に濡らす強さではなかった。コースの一部分が完全に滑り易いコンディションとなったものの、コース全体はウェットコンディションにはならない、実に奇妙な状況だった。レインタイヤに換えるか、スリックのまま走り続けるか、その判断は非常に難しかった。
 それでも路面は徐々にだが着実に濡れて行った。そこへフルコースコーションが重ねて出された。7周目にはエド・カーペンター(エド・カーペンター・レーシング)がクラッシュし、その後には多重アクシデントも発生した。そして19周目、マルコ・アンドレッティ(アンドレッティ・オートスポート)のアクシデントで3回目のイエローが出された時、トップを行くパワーがピットロードへとステアリングを切った。「レインタイヤに換えるか、スリックのまま行くか、その判断は本当に難しかった。そこへ無線交信の混乱も重なった。自分とピットが同時に話してしまったんだ。僕はピットに入ることとし、レインタイヤにスイッチした」。
 この決断が失敗だった。結果論だが、それは紛れもない事実だ。パワーはスコット・ディクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)やセバスチャン・ブルデイ(ドラゴン・レーシング)を従えてピットインし、スリックで走り続けるリスクを冒したライアン・ハンター-レイ(アンドレッティ・オートスポート)にトップの座を明け渡した。ランキング2位のハンター-レイがこの展開を完璧に利用してトップに立ったのは驚きだった。

最後のリスタートでもポジションダウン


 7番手まで下がったパワーは、すぐにまたスリックへと戻すためのピットストップを行なう羽目に陥った。雨は考えらたより遥かに短時間で止んだのだ。53周目にパワーはトップに復帰したが、それはハンター-レイたちとのピットタイミングのズレによって巡って来たトップでしかなかった。
 57周目、パワーはピットに入り、順位は7位へと逆戻り。そこから5位まで挽回。ところが、ゴールを目前にルーベンス・バリケロ(KVレーシング・テクノロジー)とオリオール・セルビア(パンサー-ドレイヤー・レインボールド・レーシング)にパスされ、セルビアだけは辛うじて抜き返し、6位でゴールを迎えた。
 パワーが不運だったのは、レース終盤にイエローが重なった上、オフィシャルの不手際でアンダーイエローの周回数が多くなったことからライアン・ブリスコー(チーム・ペンスキー)とディクソンに給油の必要がなくなった点だった。彼らがスプラッシュのためにピットに向かっていれば、パワーは4位でゴールできていたはずだった。しかし、彼は6位でゴールすることとなったのだ。

「まだポイントを保っているのでハッピーだ」とパワー

 
 エドモントンではエンジン交換のペナルティで後方スタートとなり、3位まで追い上げるのがやっとだった。ミド‐オハイオではスタートから57周をリードしながら、ピットの位置の悪さから最後の最後で勝利を手放した。ソノマではフルコースコーションの出されるタイミングが最悪で、ここでも最多リードラップを記録したが優勝はチームメイトの手に渡った。そして今回、彼を勝利から遠ざけたのは天気、そしてピットの判断だった。「毎週々々、最速のマシンを手にしているのに勝てない。最速も最速、ライバルたちを突き放す速さを見せているのに」とパワーは悔しがった。「シーズン序盤に3連勝した時、そのままシーズン終盤まで勝てないままで行くなんて考えもしなかったよ」とも彼は語った。
 残るは最終戦のフォンタナだけとなった。パワーは、「最後のレースではとにかくゴールまで走り切りたい。そして、タイトル獲得でシーズン終了としたい。まだポイントリードを保っているんだからハッピーだ。状況は悪くない。今日のレースがこういうパターンになる可能性は考えていた。勝てなかったのは悔しいが、タイトルは簡単になんか獲れないものなんだ。これからもベストを尽くし続け、最後の最後まで戦い抜くだけ」と努めて明るく語った。

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2012 INDYCAR レポート:R14 グランプリ・オブ・ボルティモア 決勝 ライアン・ハンター-レイが勝負強さを見せつけて今季4勝目

今季4勝目を挙げたハンター‐レイ Photo:INDYCAR LAT USA
予選第1セグメント敗退のハンター‐レイ
グリッド10番手から挽回を期する

 ミド‐オハイオではシボレー・エンジンが壊れ、ソノマでは3位を走っていたレース終盤大詰めで後続にヒットされて18位フィニッシュ。ウィル・パワー(チーム・ペンスキー)も運のないドライバーだが、ライアン・ハンター-レイ(アンドレッティ・オートスポート)も不運さでは負けていない。
 ボルティモアではパワーがポールポジションを獲得。対するポイント2位のハンター-レイは、予選第1セグメントでアタックを行う前に赤旗が出され、そのまま走行タイム終了。不運は続いているようだった。
 しかし、ハンター-レイは自分自身に言い聞かせるように、「まだチャンスはある。この状況は覆せる」と繰り返しコメントしていた。グリッドは10番手と、絶望的に後方ではない位置に決まった。


雨の中、マイケル・アンドレッティから
スリックでステイアウトする指示が

 レース序盤の雨は、ハンター-レイに大きく味方した。路面が濡れて行く中、スリックのままステイアウトする作戦を決断したのはチーム・オーナーのマイケル・アンドレッティだったという。「タイトルを獲る。そのためにはパワーと同じ作戦を選んでいたんじゃダメだ。チャンピオンになるために、ここはスリックで行く」と彼は無線で告げたという。ハンター-レイは多少無謀な作戦の気もしながら、マイケルの考えに賭けることとした。
 「あのマイケルの判断が正解だった」とレース後にハンター-レイは振り返った。「雨のレースは好きだけど、それはレインタイヤを履いた場合。今日は濡れてる路面で、それもストリートコースでスリックを使い続けた。マシンをコントロールし続けるのは本当に大変だった」と彼は笑った。


69周目のリスタートで巧みにトップを奪取

 小さな接触は幾つもありながら、ハンター-レイはマシンを前へ前へと進め続けた。そして、勝負を決定づけたのが終盤69周目のリスタートだった。トップを走っていたのはライアン・ブリスコー(チーム・ペンスキー)だったが、彼が加速を躊躇している間に鋭いダッシュを決めてハンター-レイはトップに立ち、もう一度あったリスタートでもその座を守り、チェッカードフラッグを受けた。
 「2列で切るリスタートだというのに、ハンター-レイは僕の真横に並ぶ努力をせず、シケイン脱出後に一気に加速して行った。隊列が整っていなかったのにリスタートが切られたのは、少々アンフェアだったと思う」とブリスコーは優勝ドライバーとオフィシャルの両方に不満を述べた。
 今日のレースでは、フラッグタワーのスタート担当オフィシャルが、先頭マシンが加速区間に到達する前にグリーンフラッグを振ることを何度も繰り返していた。その事実を踏まえ、早いタイミングでの加速に対する準備を整えていたのがハンター-レイで、ブリスコーは少々真正直に過ぎた。
 これでハンター-レイは今季4勝目だ。パワーと並んでいた勝利数=3から一歩抜け出て最多勝利ドライバーとなった。ポイント争いでは依然としてパワーがトップだが、ハンター-レイとの差は36点から17点にまで縮まった。
 「今日のレースで勝てるなんてすごいことだ! 」とハンター-レイは大興奮だった。「チーム全体がタイトル獲得を強く望んでいる。この勢いで最終戦も戦い、チャンピオンシップを手に入れたい。僕らにはプレッシャーなんて一切ない」とハンター-レイはフォンタナへの意気込みを語った。

2012 INDYCAR 佐藤琢磨コメント74:R14 グランプリ・オブ・ボルティモア Race Day ウォームアップ「朝のセッションでトラブルが出切ってしまったと祈るしかないですね。多分、大丈夫だと思います」

R14 ボルティモア・グランプリ
ボルティモア市街地コース
2.04マイル(=約3.282㎞)×75周

Race Day ウォームアップ
13位 1分19秒9059 11周走行


100マイルをすでに走行したエンジンに載せ替え

昨日の予選の後、レイホール・レターマン・ラニガン・レーシングはエンジンの積み替えを行なった。今週末から投入したフレッシュエンジンがトラブルを起こしたからだ。詳細な事情は不明だが、それで新たに供給されたエンジンは新品ではないとのことだった。インディーカーにはホンダのフレッシュエンジンがまたプールされているはずだが、今週末の15号車用へとデリバリーされた2基目は、新品ではなく、何100マイルかをすでに走っているエンジンとなった。
 ところが、この新たに積んだエンジンがまたしてもトラブルを出した。セッション開始からエンジンは完調ではなかったようだ。走行終了後、HPDとRLLは問題の原因を発見したようで、ガレージではエンジンはシャシーに搭載したまま、補器類の交換作業が行われていた。


「バランスは一応チェックできたけど、また変えたいってことで
スプリングパッケージも見直して、変更をしてもらってます」


――セッション後半にエンジントラブルが出てしまったようでしたね?

佐藤琢磨:はい。そうでした。

――セッションの半分で赤旗が出て、前半はブラック、後半はレッドタイヤでの走行というカタチになっていたと思うんですが、エンジン以外のマシンの状況はどうでしたか?

佐藤琢磨:今日は最初からエンジンにトラブルが出ていました。ピットに入ってニュートラルにしたらエンジンが止まってしまった。でも、すぐにはどうしようもできなかったんです。レッドタイヤで出て行った時も最初にブレーキロックがあって。2台一緒に1コーナーの外側を回ったんですよ。そうしたらコースマーシャルは1台ずつ一時停止させてコースに戻さなくちゃいけなくて、そこでもクラッチを引いて、走り出そうとしたらまた止まっちゃった。もう、どうしようもできない。直結したカートみたくずっと動いてなくちゃいけなくて、で、何とかエンジンをかけてもらって、リスタートしてレッドタイヤで3周ぐらいできたのかな? でもトラフィック待ったから事実上測れたラップは1周だけでしたね。最後は、ヘアピンを回ったところでエンジンが、ギヤがエンゲージした状態で完全に止まっちゃった。だから、このセッションはほとんど収穫がない。バランスは一応チェックできたけど、いい部分と悪い部分の両方があって、結構また変えたいなってことで、スプリングパッケージも見直しして、変更をしてもらってます。そういう意味では、順調なセッションとはできなかったですね。

――決勝に向けて、エンジンの問題が解決されればいいんですが。

佐藤琢磨:朝のセッションでトラブルが出切ってしまったと祈るしかないですね。多分、大丈夫だと思います。

――またエンジン交換をしたのではないですよね? 補器類を変更した、ということだったんですか?

佐藤琢磨:エンジンは今日のエンジンは昨日までのものとは違って、他チームがテストで使った中古になっているんですよ。

――何らかの事情で、特例的に新品ではないエンジンを使う状況になっているわけですね?

佐藤琢磨:まぁ、テストで走った実績があるので、問題なく走れるエンジンなんだとは思います。今朝の問題は補器類に出ていたようですし。

――中古といっても、すごいマイレージを重ねちゃってるエンジンてことはないですよね?

佐藤琢磨:ソノマのテストとレース、フォンタナでのテストを走ったのと同じぐらいの距離は出ているものみたいですよ。スペック的には、今週の最初から使っていたものと同じです。そして、このエンジンがスーパー・デューパー・エンジンでないことは、今朝のスピードトラップでの数字で証明されてます。時速5マイルでしたから。

――トラブルが解消されたエンジンで、上位へとのし上がって行くレースを期待しています。

佐藤琢磨:はい。見ていてください!

2012 INDYCAR レポート:R14 グランプリ・オブ・ボルティモア Race Day ウォームアップ 最速はシモン・パジェノー、2番手はスコット・ディクソン。佐藤琢磨はエンジン・トラブルで13番手

初日のシケインの様子 Photo:INDYCAR LAT USA
 再び、シケインにタイヤが積み上げられることに

 決勝日朝のウォーム・アップ・セッションは曇り空の下、27℃と低めの気温、路面温度というコンディション下で行われた。このセッションからメインストレート上のシケインは、左にターンする1個目のコーナー内側にタイヤが積まれていた。ひとつ目の縁石に絶対に乗り上げられないようにすることで、進入スピードを抑えようということだ。
 アメリカン・ル・マン・シリーズの決勝レースが行われ、一晩が経った路面は昨日の予選時とはコンディションが大きく異なっていた。このウォームアップの後にはUSF2000、スター・マツダ、インディライツのレースが行われるので、最後のレースとしてスタートの切られるインディーカーの決勝レースでは、また更にコンディションが違ったものへと変化していることだろう。マシンセッティングはどのようにすべきなのか、エンジニアたちが頭を悩ませるところだ。
 今朝の30分間の走行セッションで最速タイムを出したのは、ルーキー・オブ・ザ・イヤーのシモン・パジェノー(シュミット・ハミルトン・モータースポーツ)だった。タイムは1分18秒7420。昨日の予選で12位だったパジェノーだったが、彼は3回のプラクティス総合で7番手につけていた。予選ではトップ6を十分狙える位置につけていたのだ。しかし、予選の第1セグメント終盤にシケイン出口外側の壁にヒット。リヤのウィッシュボーンを曲げ、その周辺部分にもダメージを与えてしまった。彼らはファイストン・ファスト6に進出すべくピットでマシンの修理に取りかかり、ブライアン・ハータ・オートスポートのアレックス・タグリアーニ車からパーツを移植することも行ったが、あと少し時間が足りず、第2セグメントでアタックを行うことはできなかった。
 今朝の2番手は1分18秒7495のスコット・ディクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)。彼の昨日のコメントの通り、マシンの仕上がり具合はかなり良いようだ。トップのパジェノーとの差は、もうないに等しい0.0075秒という小ささだった。


新品レッド2セット保有のハンター‐レイが3番手に

 今日の3番手はライアン・ハンター-レイ(アンドレッティ・オートスポート)だった。ベストは1分19秒2639と、上の2人には少々劣るが、タイトル争いを行う彼はボルティモアでも速そうだ。予選第1ステージ敗退の彼には、予選をフルに3ステージ戦ったライバルたちとは違い、新品のレッドタイヤが2セットある。それを活かした戦いぶりを実現すれば優勝争いは十分に可能だ。
 ポールシッターのウィル・パワー(チーム・ペンスキー)は1分19秒5709で6番手と、何やら彼らしくない今ひとつのデキだった。
 このセッションではJR・ヒルデブランド(パンサー・レーシング)=予選25位=が4番手、ジェイムズ・ジェイクス(デイル・コイン・レーシング)=予選22位=が5番手につけた。後方グリッドからスタートする彼らだが、どんなレースを見せることになるのだろうか?
 佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)は13番手だった。ベストは11周のうちの10周目で、タイムは1分19秒9059だった。パジェノーやディクソンが17周を走ったのに対し、琢磨が5周も少ない11周を記録するにとどまったのは、彼がコース上にストップしてしまったためだった。先週のソノマでの決勝に続いて、エンジンが止まってしまったのだ。
 レースのスタートは午後2時45分と、幸いにも時間的余裕は十分。RLLとホンダはトラブルの原因究明を行い、対策をキッチリ施して決勝のスタートを迎えたいところだ。

2012 INDYCAR ニュース:R14 グランプリ・オブ・ボルティモア カラーリングガイド & 周辺情報


マルコ・アンドレッティのドクター・ペッパーカラー Photo:INDYCAR LAT USA
 マルコ・アンドレッティの斬新なカラーリングに注目!

 今回はフレッシュなカラーリングがあります! その1はマルコ・アンドレッティ、その2はオリオール・セルビア。残念ながらどちらのドライバーも予選までのパフォーマンスはマイチでしたが、去年のレースではトニー・カナーン(27番グリッド)とセルビア(14番グリッド)が後方スタートから表彰台に到達していたし、今年はよりエキサイティングなレースになることが期待できる状況にもなっています=走行時間の少なさとか、新設シケインの難しさとか、プッシュ・トゥ・パスのディレイ廃止とか……。
 ところでこのカラーリングガイドって企画ですが、シーズンを通して同じカラーリングを使い続けた場合、チームメイトとの比較でもない限り紹介されなくなっちゃってます。そこで、今回は通年カラーリングの面々についても何人かだけですが、少しずつアレコレ書くことにしてみました。

2 ライアン・ブリスコー 

2010年以来の勝利を挙げた日立カラーではなく、今回はPPGカラーでの登場。白/青/青のトリコロールは一番ブリスコーっぽいし、ウィル・パワー号との差も明確だからいいと思うんだけど、どうでしょう? 先週の勝利でチーム残留なんて話も聞こえて来てますけど、一度決まった(と思われる)契約終了が更新に覆ることなんてこち、常識的には考えられませんよね? ベツに、私がブリスコーのペンスキー離脱を歓迎しているワケじゃないんですけど。ただ、パワーと同じチームで戦って、彼に勝ち続けるのは難しいかもな、とは思います。他チームで、総合力で強敵を敗るってアプローチ、挑戦の価値アリと思います。G2がそうなる実力を秘めてるかは別の話です。ブリスコーの現在のランキングは8位。ただし、ランキング5位のシモン・パジェノー(シュミット・ハミルトン・モータースポーツ)とは21点の差しかない。

3 エリオ・カストロネベス 

 ペンスキー・トラック・レンタルの白/青/黄パターン。去年は勝利なしだったのに、今季は2勝を挙げてるんですから、37歳のドライバーとしちゃ素晴らしいパフォーマンスです。ダリオ・フランキッティ様でも1勝ですよ、今年は。チームメイトのパワーが、「エリオは素晴らしい能力を持ったドライバー」と賞賛してました。お世辞じゃなく、マジメに。彼にとっちゃ、ロング・ビーチで弾き飛ばされたり(去年)、結構迷惑もかけてくれたセンパイですけど、「新しいダラーラは2ペダル。彼はもうベテランだというのに、それに合わせてドライビング・スタイルを変えた。長年ブレーキを右足で踏んで来たのに」と、いつだったか話してました。41点差を逆転してのタイトル獲得、あるでしょうか、ね?

10 ダリオ・フランキッティ

  メモリーカードなどのブランド=レクサーがメインスポンサーとなって、マシン全体が黒に。ブラジルと同じパターンで、ウィング類は一部が薄茶色。今年はインディー500での1勝のみ。そのレースは健気にもターゲットカラーで記録してましたね。それも、創業50周年のカーナンバー50で。今回は真っ赤なマシンではないですけど、2勝目を挙げる大きなチャンス。作戦も絡めてスマートに戦い、運も味方につけられれば打倒パワーは可能なはず。でも、彼としては僚友ディクシーの逆転タイトル獲得に少しでも役立ちたいって考えてるんじゃないでしょうか。現在ランキング9位で、もうタイトルの目はなし。

11 トニー・カナーン

  保険会社のガイコがメインスポンサーで、白/青/緑のシンプル&クリーンな、TKらしくないカラーリング。現在ランキング6位。ひとつ上のパジェノーとの差は10点しかありません。当然トップ5狙い。

14 マイク・コンウェイ 

 建設会社のABCカンパニーがメインスポンサー。赤/青/白の星条旗カラー。白い部分が多いとはいえ、同パターンが多過ぎ(グレアム・レイホール、ジェイムズ・ジェイクス)。自国ダイスキのアメリカンとしては仕方がないのかな、これも。ホンダがガナッシの次に契約したのがこのチーム。生きる伝説=AJ・フォイトのチームで、将来性を期待される若手の一人=コンウェイを抜擢。インディーカーのシャシーデザインをした経験も持つベテランエンジ二アのドン・ハリデーを起用したのは、AJからチームを受け継いで切り盛り=近代化を推し進めている元ドライバーのラリー・フォイト。来シーズンはもっとパフォーマンスが上がるはず。今年のベスト・リザルトはトロントでの3位で、ランキングは現在19位。

15 佐藤琢磨 

 サイド・ポッドのロゴはソノマでのBigge(ビギー)が1戦だけで消え、もとのMI-JACK(マイジャック)へと戻されている。琢磨のランキングは2戦を残して15位。ひとつ上のルーベンス・バリケロ(KVレーシング・テクノロジー)とは4点差、ランク11位につけるJR・ヒルデブランド(パンサー・レーシング)とでも14点しか差はない。10位のグレアム・レイホール(チップ・ガナッシ・レーシング)との間だと差は43点と少々あるけれど……。どこまでランキングを上げられるか。

22 オリオール・セルビア 

Photo:INDYCAR LAT USA
  オイルフィルターのウィックスがメイン・スポンサー。ブラジルもそうだった? そんな記憶が。ただ、アノ時はロータス・ワークスっぽく黒メインだった。今回は白ベースで金色を配したカラーリングで、なかなか良い。他にないパターンだからか、コース上で実に目立つ。思い起こせばブラジルは彼らにとって暗黒の時代でしたね、ロータス・エンジン使用での最後のレースだったワケだけど。今年はこれまでのところ、インディー500とミルウォーキーというシブイところで4位フィニッシュ。デトロイトとトロントでは5位。ランキング13位。

26 マルコ・アンドレッティ

  ドクター・ペッパーがメイン・スポンサー。しかし、カナダ連戦とはカラーリングが違う。マットなグレー、ワインレッドというかエンジ色というか、と白のコンビネーション。目新しさはある。RCコーラなんぞのアリキタリな青/白/赤よりは全然イイ。マルコのランキングは16位。チームメイトふたりはトップ10にいて、そのうちの一人はタイトルを争ってる。来年は奮起しないと。

27 ジェイムズ・ヒンチクリフ

  ニューマン-ハース・レーシングからデビューしたが、名門チームが閉鎖に。キャリア継続の危機に陥っているところを、元ニューマン-ハースのエース=マイケル・アンドレッティが救った。インターネットドメイン会社であるゴーダディ・ドット・コムはダニカ・パトリック(すでに懐かしい)のスポンサーだったが、”ヒンチタウンの市長”というウェブサイトを運営してスポンサー獲得に努めて来ていた”ヒンチ”の方がよりピッタリのスポンサーと言える。ヒンチはコース上でのパフォーマンスでダニカを軽々と上回る上(まだ勝利はないが)、明るく人なつこい人柄でメディアやファンの間での人気も着実に上昇している。開幕から5戦連続トップ10フィニッシュ、その後にさらに3回トップ0入り。表彰台2回は2シーズン目としたは素晴らしい成績。で、現在ランキング7位。

36 グレアム・レイホール 

 今回はサイド・ポッドにNTBのロゴ。これはサーヴィス・セントラル(SC)の系列。マイダス、ビッグ・オー・タイヤズ、NTB、SCとSC系列だけで4パターンがあったということ。今日は幾人かのドライバーに予選第1セグメント・第1グループで迷惑をかけてしまったグレアムだが、同時に2人のドライバーに初の予選第2セグメント進出をもたらした。この二世代目、チャンプカーからインディーカーにスイッチした最初のレースで優勝(多分にラッキーだった)しているが、アンドレッティの三代目と同様、レースに賭ける本気度が低い気がしてならない。ハングリーさがヤッパリ足りないということか。マルコよりコメントはスマートだが……。今年のベストリザルトはテキサスでの2位。ランキングは10位。トップ10を保てるか?

67 ブルーノ・ジュンケイラ

  青/黒に白の細ストライプ、ウィングなどに蛍光イエローのアクセント。ジャンキーはソノマで負傷したジョセフ・ニューガーデンの代役。この1戦のみの予定。ソノマでのアクシデントでは、ぶつかって来たセバスチャン・ブルデイ号ともどもシャシー・タブが破壊されてしまった。ダラーラ製の新型シャシー=DW12は安全性が高く、ドライバーたちは大怪我をせずに済んだ。しかし、よりによって規模の小さい2チームのシャシーがお払い箱の憂き目に遭った。サラ・フィッシャー・ハートマン・レーシングは青く塗ったシャシーでのボルティモア登場となった。今回もSFHRのマシンにはスポンサーロゴが少なく、どれもが小さい。新生チームとしてはかなり良いパフォーマンス、若く才能がありルックスも良いドライバー、元レーサーの女性オーナー=サラ・フィッシャーとセールスポイントは少なくない。来年はより強力な体制での参戦を期待したい。

2012年9月2日日曜日

2012 INDYCAR 佐藤琢磨コメント73:R14 グランプリ・オブ・ボルティモア Day2 予選 「レッドタイヤのバランスも見れなかった。これはすごく残念ですね。明日は後方からのスタートですけれども、巧く順位アップしていきたいです」

R14 ボルティモア・グランプリ
ボルティモア市街地コース
Day2 予選
第1セグメント敗退 1分18秒9672 トータル19位


ファスト6進出が見えていた佐藤琢磨だったが
思わぬ不運で予選は第1セグメント敗退


 今シーズンの佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)は、ストリート・コースでは良いフィーリングで戦えて来ている。それは、サン・パウロとエドモントンでの表彰台登壇が証明している通りだ。ところが、ボルティモアのストリートでは、走行初日の順位が25台中の21番手と、予定していた好スタートを切れなかった。それでも、コース改修の必要が出て走行時間が制限される悪循環を乗り越え、走行2日目のプラクティス3で琢磨は4番手のタイムをマーク。予選をギリギリ前にして体制を一気に立て直す事に成功した。
しかし、不運が琢磨を襲った。予選第1セグメント、同グループで走っていたグレアム・レイホール(チップ・ガナッシ・レーシング)がシケイン出口でハードクラッシュ! 赤旗が出され、まだアタック・ラップを1周も終えていなかった琢磨は第1セグメントでの敗退を余儀なくされたのだ。その結果、ロードコースが不得意でセッション開始から走り続けていたエド・カーペンター(エド・カーペンター・レーシング)と、スポット参戦のために少しでもコースとマシンに慣れようと、同じく多くの周回をこなしていたブルーノ・ジュンケイラ(サラ・フィッシャー・ハートマン・レーシング)が共に初の第2セグメント進出を果たした。


「アタックラップに張ったところで赤旗でした。
こればっかりは予想もできないし、悔しいですね」

――アタックを始めたか、始めようというところで赤旗でしたか。


佐藤琢磨:はい。コースに出てって、ウォームアップをやって、アタックラップに入ったところで赤旗が出ました。だから、上に上がってったドライバーたちっていうのは、全員2ラップ目に入ってた。それが、僕らより半周ぐらい前だったのかな? ちょっとしたタイミングでしたけども、こればっかりは予想もできないし、悔しいですね。

――非常に珍しいケースですよね、赤旗で計測時間が今日ほど大幅に削られるのは。

佐藤琢磨:そうですね。だから、今日の僕らがコースインが遅かったといっても、それがそんなに大きなギャンブルであったわけではないんです。先にアタックを始めていたドライバーたちといっても、彼らは僕らとほぼ同じタイミングで出てっていたわけで、そんなに大差はなかったから。

――トップ6も狙えた状況下、上位のグリッドを獲れなかったことも悔しいと思いますが、1周のアタックすら終えていないということは、レッドタイヤについての情報収集も行えていないんですよね。
 

佐藤琢磨:そう。アタックさえしてない。レッドタイヤのバランスも見れなかった。それは非常に残念ですね。

――良いことがあるとすれば、レッドの新品が2セットあって、3セット目もほとんど使っていない状態だということぐらいですか?

佐藤琢磨:まぁ……もうちょっと今日は上のグリッドを獲得できると思っていたから非常に残念です。マイク(・コンウェイ)は、最後はクラッシュしちゃってたけど、あそこまでタイムを出せてた。今日の午前中、自分はマイクとほぼ同じぐらいのところにいたから、そういう意味では、自分たちも高いとこまで行けたと思うんですけどね。

――今日の予選ではシケインで何台かが大きなアクシデントを起こしていました。

佐藤琢磨:今日の朝に雨が降っちゃったために、路面がクリーンな状況で、そこからレッドタイヤ装着で、走る毎にかなりサーキットは良くなって行っている感じは受けましたね。出るたびにコンマ5秒ぐらいのタイムアップができていたので。多分、また予選では次元が変わって行ってたと思うんですけど、それが見れなかったのは残念でした。その中で、昨日仮設シケインを作って、今日から縁石になった状況でみんなギリギリのアタックをしたので、ちょっとアクシデントが多くなっていましたね。明日はまた同じような事故が起こらないとは限らないので、後方からのスタートですけど、それをうまく使ってポジションアップをして行きたいです。

――明日のウォームアップのテーマはどういうものになりますか?

佐藤琢磨:レッドタイヤをあんまり使いたくないとはいえ、バランスはしっかりと見ないといけないと思うので、今日予選を走った中で、何かを学ぶのは非常に難しかったんですけど、予選に向けてプラクティス3までで作ってきたクルマの方向性っていうのは、わりとポジティブになって来たので、このまま作業を続けて、ウォームアップでもう一段前進させたいですね。

2012 INDYCAR レポート:R14 グランプリ・オブ・ボルティモア Day2 予選 ウィル・パワーが2年連続、今季5個目のポールポジション

Photo:INDYCAR LAT USA
 運にも恵まれたポール・ポジション獲得

 ウィル・パワーがボルティモアの予選でポールポジションを獲得した。去年、ここでポールポジションを獲得した彼は、レースも制した。今年はどうだろう? 去年はソノマとボルティモアの2戦続けてポール・トゥ・ウィンを飾ったパワーだったが、今年はソノマで勝利を逃している。
 パワーは決して運の良いドライバーではない。それはもう何度も証明されて来ている。しかし、今日の予選では、彼よりも彼のライバル達の方が不運に見舞われていた。 


ハンター-レイ、アタック前の赤旗に 泣く

 例えば、ポイント2位につけるチャンピオンの座を争うライバル、ライアン・ハンター-レイ(アンドレッティ・オートスポート)は、予選アタックを始める前にセッションが赤旗になり、第2セグメントへの進出を果たせなかった。ミッド・オハイオではエンジン・トラブルに遭い、ソノマでは3位フィニッシュを目前にアレックス・タグリアーニ(ブライアン・ハータ・オートスポート)に追突されて18位に沈んだ。不運さならハンター-レイもパワーにひけを取らないかもしれない。
 ポイント3位のエリオ・カストロネベス(チーム・ペンスキー)は、不運でなかったというのに、今日の予選では苦しんでいた。朝のプラクティスで3番手につけ、予選でもアタックのチャンスを十分与えられながら、タイムを出せずに第1セグメントで姿を消した。
 パワーがタイトルを争う相手の中では、唯一スコット・ディクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)が彼に近い予選順=3位を手に入れた。パワーほどの衝撃的な速さは発揮していないディクソンだが、ガナッシのチーム力も考えれば、彼の存在は無視できない。


2012 INDYCAR 佐藤琢磨コメント72:R14 グランプリ・オブ・ボルティモア Day2 プラクティス3 「ボルティモアはストリートなのにロードコース・テイスト。その辺のうまくバランスを取っていくようにしてその結果良い感じが得られるようになりました」

R14 ボルティモア・グランプリ
Day2 プラクティス3 
4位 1分20秒2109  15周走行



スリック装着の最後のラップで自己ベストを更新

  昨日とは一転、ウエットコンディションで始まったプラクティス3だったが、セッション中に路面は徐々にドライへと変わって行き、最後はスリックタイヤでの走行が可能になった。予選はドライ・コンディションで争われる見込みだが、明日の決勝は雨の可能性アリ。今日のプラクティスはウェットとドライ、どちらのコンディションでも走っておくのが得策という、珍しい状況となっていた。佐藤琢磨は15周を走行。スリック装着の最後のラップで自己ベストをマークし、4番手につけた。苦境から一気に抜け出し、予選での好パフォーマンスが期待できることとなった。

「シケイン2個目の縁石は要注意ですね」

Jack Amano(以下――):ウェットで始まりドライになるプラクティスでした。昨日ドライで苦戦していた佐藤選手としては、予選が行われるであろうドライで長く走りたかったと思いますが?

佐藤琢磨:そうですね。雨は予選まで降らないでって願っている感じでした。クルマは昨日から大きく変えてるし、ドライで走りたかった。最初は雨で始まって、それでも見れるところはあるので、幾つかパラメーターをチェックして、最終的にはラスト4、5周をドライで走れました。そこはすごく収穫が大きかった。

――ドライで一気に良いタイムを出せたのは、昨日のデータを研究し、かなり良い発見があったということですか?

佐藤琢磨:そうです。ここずっとミド‐オハイオ、ソノマと苦しんで来たレースで、自分たちの殻から中々抜け出せないでいましたよね。そんな中で少し違うことをトライしつつ、でも、今までのストリートでのパフォーマンスがそこそこ良いところに行ってたので、それを殺さないように幾つかのことをトライしました。それがようやく良いカタチに現れて来たかな? ボルティモアはストリートなのにロードコース・テイスト。ブラジルみたいな純粋なストリートって感じの動きをマシンがしないので、そこらへんをうまくバランスを取って行くようにしてみた。その結果、プラクティス3で良い感じが得られたのは良かったですね。

――新しく設置されたシケインはどうですか?

佐藤琢磨:昨日のタイヤよりは全然いいですね。でも、かなりハイスピード。右、左と、ちょっと行き過ぎて、特に2個目の縁石に乗るとヒルデブランドみたくなっちゃう(マシン左側を大破させるハードクラッシュ!)。僕も最終ラップ、リヤがひっかかってマシンがポーンッと弾けて、飛びそうになったのでレースでも非常に気をつけなきゃいけないとこですね。

「予選ではうまく走れればいいなと思っています」

――明日のレースが雨になる可能性もありますが、このコースでウエットレースとなったら、かなり難しいですか?

佐藤琢磨:新しいアスファルトの部分が、ドライではすごいハイグリップで、コンクリートはロー・グリップになっちゃうんですけど、雨になると真逆で、コンクリートのセクションが表面がラフなのでグリップして、アスファルトのところはオイルが出るのかスムーズなのに全然(タイヤが路面を)喰わない。だから、すごく難しいですね。トランジションというか、ちょうどウェットからドライ、あるいはドライからウェットへと変わる時には、どれだけのグリップを期待できるのかという判断が難しいし、ピット近くのシケインも、僕を含めた何人かがスピンしたように、かなり気をつけないといけないセクションになりますね。

――レースはウェットならウェット、ドライならドライという同一コンディションとなった方がシンプルで戦い易いと思いますが?

佐藤琢磨:やり易さはありますけど、僕らとしては雨が降れば良い方向に行くかもしれな。予選で僕らがどれだけ行けるかわからないけど、トップ10目指して行っても、それでも10グリッドダウンのペナルティを受けるから、どう転んでも後方からのスタートになる。雨が降ればピットストップの回数が増えるだろうし、展開を味方につけられる可能性が増える。まずは予選で、ひとつでも上のポジションに行きたい。ここまで、あまりにも不甲斐ないパフォーマンスが続いているので。チームとしてもかなり苦労してましたけど、今日の予選ではうまく走れればいいな、と思います。

2012_INDYCAR レポート:R14 グランプリ・オブ・ボルティモア Day2 プラクティス3 ウェットからドライへとコンディションが変わるセッション、トップはライアン・ブリスコー、佐藤琢磨は4番手

プラクティスのラスト10分でスリックタイヤのコンディションに

 走行2日目を迎えたボルティモアは、朝から灰色の雲に覆われ、朝方に降った雨により路面はウェットコンディションとなっていた。気温は摂氏27度と昨日と比べて低かった。
 プラクティス3が始まったのは午前9時。まだ時折ポツポツと雨が降って来る状況で、ウェットタイヤ装着で走行は始まった。
 インディーカーが周回を重ねたことで路面は徐々に乾て行き、最後の10分間ほどだけだがスリックタイヤでの走行が可能となった。こうなると最後の最後、もっとも路面状況が良くなったところでベストラップを記録した者がタイムシートの上位に来る。セッション終了間際、ライアン・ブリスコー(チーム・ペンスキー)が1分19秒7635を叩き出してでトップの座を奪った。先週ソノマで勝ったばかりのブリスコーには、一気に勢いに乗る可能性もある。
 ブリスコーによって2番手に下げられたのはマイク・コンウェイ(AJ・フォイト・エンタープライゼス)だった。彼のベストは1分19秒7646。ここまでが1分19秒台だった。
 

佐藤琢磨、ドライセッティングがピンポイントで的中!
 

 チェッカード・フラッグが出される直前、佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)は3番手に食い込むタイムをマークした。しかし、琢磨の少し後方を走っていたエリオ・カストロネベス(チーム・ペンスキー)が、やはり最後のラップで1分20秒0197のベストを出し、1分20秒2109の琢磨は4番手となった。
 それでも、昨日のプラクティス2での順位が21番手だった琢磨陣営が同じドライ・セッションで4番手のタイムを記録したことは大きな飛躍と評価していいだろう。しかも、今日のプラクティスは大半がウェットコンディションだった。予選が行われるであろうドライコンディションでのセッティングを存分に試せたわけではなかった。昨日の限られたデータを基に新たに考え出したセッティングがピンポイントで的中したからこその好パフォーマンスだったのだ。


パワー、ハンター-レイも中団に沈む

 ポイント・リーダーのウィル・パワー(チーム・ペンスキー)は、昨日のプラクティス2ではトップだったが、1日経ったプラクティス3では15番手に沈んだ。ポイント2位のライアン・ハンター-レイ(アンドレッティ・オートスポート)も8番手と今ひとつのポジションを得るにとどまった。セッション終盤にクリア・ラップを確保できなかったという理由も考えられるが、チャンピオン争いを行う面々で好位置につけたのはカストロネベスだけだった。スコット・ディクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)もこのセッションでは10番手と目立たなかったのだ。
 予選は午後12時05分スタートだ。