2012年9月15日土曜日

2012 INDYCAR 佐藤琢磨コメント77:R15 MAV TV 500 フォンタナ Day1 予選「プラクティスからマシンを変えたので、あまりにもわからない状態で予選に臨むことになり相当緊張感のある予選となりました。ピットからコースへと出て行って、グリップ感とバランスを確認して、グリーンフラッグからアタックに入る時には、かなり攻め込んで行けるだろうなっていうのは予想できました」

Photo:INDYCAR LAT USA

R15 MAV TV 500
カリフォルニア州フォンタナ
オートクラブ・スピードウェイ
2マイル・スーパースピードウェイ×250周

Day1 予選
16位 1分07秒5354  213.222mph(=約343.072㎞/h)


予選16位ながら、トップとの差はプラクティス1から大幅に接近

 プラクティス1でトップだったライアン・ブリスコー(チーム・ペンスキーのベスト・ラップは平均時速217.517mph(=約349.985㎞/h)だった。対する佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)のプラクティス1で出したベストは、平均時速210.939mph(=約339.401㎞/h)。スピードで時速6.5mph(=約10.5㎞/h)、時間だと2マイルのコースを1周走っただけで1.0323秒もの差をつけられていた。
 しかし、予選ではポールポジションのマルコ・アンドレッティ(アンドレッティ・オートスポート)に対し、琢磨はスピードで2.847mph(=約4.581㎞/h)差まで詰め寄ってみせた。2ラップ連続アタックのラップタイムの差を1周平均約0.4550秒にまで縮めたのだ。19周しか走れなかった予選日午前中のプラクティス1のデータから、琢磨&RLLはマシンを大幅に向上させた。もちろん、まだトップ争いには程遠いタイム差が存在するが、レースウィークエンド期間中にトップチームとの差を削り取ることができるのは、そのチーム及びドライバーの持つ能力を証明するものだと言える。
 この調子でファイナルプラクティスを走り、更に集めたデータを基にマシンを作り上げることができれば、明日の決勝、琢磨は上位でのバトルを行えることとなる可能性が十分にある。


「予選としてはほぼ満足いくバランスで、僕も攻め込めました」

Jack Amano(以下――):213mph台までスピードを伸ばしました。自らの予選をどう評価しますか?

佐藤琢磨:良かったと思いますよ。もちろん、スピード的には満足できるもいのじゃないかもしれないけど、あまりにも走れてないプラクティスで、
1ヶ月前のテストから、ほとんどのチームが水曜のテストを走って仕上げて来ているのに対して、僕らはもう午前中にやりたいことが山ほどあったのにできない状態でほとんどブッツケ本番という状態でクォリファイとなってたから、予選としてはほぼ満足の行くバランスで、僕自身としても攻め込めたと思います。

――マシンセッティングの方向性もだいたい定まったというところですか?

佐藤琢磨:そうですね。それは非常にポジティブだったと思います、今朝のプラクティスでは確認ができなかったんだけれども、予選に向けて良いだろうとされえる幾つかのセッティングを組み合わせて、結果的にこれまでここを走った中でベストのスピードが出ているので、これをキープして、夕方のセッションでもうステップ、スタビリティのあるクルマにして行きたいです。

――今日のうちにファイナルプラクティスがありますが、そこでは何をしますか?

佐藤琢磨:気温はまだ高いと思いますが、マシンがトラフィックの中でどういう動きをするのか、やったことがないので、そこを知って、良くする事がレースを戦う上では鍵になりますね。

――プラクティス1から予選へマシンセッティングを変えた。すると、走ったことのないセッティングですから、アタックへと向かうウォーム・アップ・ラップから難しいものになっていたんじゃないですか?

佐藤琢磨:そうですね。あまりにもわからない状態で予選に行くということになったので、相当緊張感があった予選になってました。まぁ、ピットからコースへと出て行って、ウォーム・アップ・ラップからグリップ感とバランスを確認して、グリーン・フラッグからアタックに入る時には、かなり攻め込んで行けるだろうなっていうのは予想できました。

「これで次のセッションに向けて自信を持って車のセットアップに取り掛かれます」

――コンディションはどうでしたか? 風の状況とか。

佐藤琢磨:朝の最後よりは風も穏やかだったと思いますし、路面の温度はほとんど変わらなかったと思いますけど、僕が感じたグリップ感じみたいのはかなり上がってる。それはクルマも相当変えてったっていうのもあるので、非常に朝のプラクティスを考えれば良い方向に向かったと思います。

――では、ファイナルプラクティスを前にホッとできた予選になってたわけですね?

佐藤琢磨:少し安心できたというか、これで次のセッションに向けて自信を持ってクルマのセットアップに取りかかれるというかね、有用なデータをこの予選で穫れたと思います。

――今朝の時点では1台で走るのも大変という話でしたけど、2列でのスタートなど、レースに向けてはどうでしょう?

佐藤琢磨:スタートはスピードがそんなに高くないので大丈夫だと思いますけど、多くのマシンが前にいるので、ある程度の不安はあります。それよりもパックになった時ですね、問題があるとすれば。ファイナルプラクティスでトラフィックの中でも動きの良いマシンとでたら、インディーの時みたく追い上げて行くレースができると思います.

2012 INDYCAR レポート R15 MAV TV 500 フォンタナ Day1 予選:マルコ・アンドレッティがキャリア2度目のポールポジション。佐藤琢磨はプラクティス時よりもマシンを向上させて16位

Photo:INDYCAR LAT USA

マルコ、4年ぶり2度目のポールポジション

 ポールポジションはマルコ・アンドレッティ(アンドレッティ・オートスポート)! キャリア2回目とは意外。それも、初のポールは4年も前の2008年、ミルウォーキーだった。つまり、マルコってロードコースではまだポール獲ったことがない。勝利はロード、オーバルそれぞれ1回ずつある。
 「嬉しい。特に今シーズンの戦いぶりを考えるとね。とても厳しいシーズンになってるから」とマルコは話した。「このポールは自信に繋がるよ」。そう、彼は自身を失いかけていた。かなり危ない状況に追い込まれていた。今年はパフォーマンスでチームメイトたちに大きく劣るレースばかりを見せて来ているのだ。
 アタック1周目が今日のブッチギリで最速の217.934mph! 単独でのスピードとしては驚異的だった。しかし、2周目は214mph台までダウン。それでもポールってところがマルコらしいといえば、らしい。
 ポールを獲得した2ラップの平均時速は216.069mphで、216.058mphだったライアン・ブリスコー(チーム・ペンスキー)は惜しくも2位に敗れた。両者を2ラップの合計タイムで比較すると、その差は0.0029秒しかなかった。


ウィル・パワーは3番手。しかしエンジン交換で10グリッド後退
ハンター-レイは17番手でエンジン交換もあり22番グリッドからのスタートに


 予選3位はポイント・リーダーのウィル・パワー(チーム・ペンスキー)。ただし、彼はエンジン交換のペナルティを受けるのでスターティング・グリッドは13番手になる。
 もっとも、ポイント2位のライアン・ハンター-レイ(アンドレッティ・オートスポート)は、チームメイトがポールだったのに17番手と苦戦。しかも、彼にも10グリッド降格ペナルティが課せられるので、22番グリッドからのスタートとなる。
 佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)は、予選16位だった。22台が参加した水曜日の合同テストに参加しなかったため、マシンセッティングを突き詰めることができていなかった。その上、朝のプラクティスがフルコースコーションなどで短くなり、作業はさらに制限された。苦しい状況でも琢磨とレイホール・レターマン・ラニガン・レーシングはエンジニアリング能力を発揮し、予選でのマシンはプラクティス時より2mph以上速くなっていた。
 「プラクティスはもっと走りたかったのに走れなかった。やりたいことが山ほどあったのに、ほとんどやれなかった。それでも予選での自分たちの到達したスピードには満足してます」と琢磨は話した。「高い気温と路面温度で、路面のグリップも低かったけれど、マシンのバランスもまずまずだった。あとはファイナルプラクティスでレース用のセッティングを詰めます」。

2012 INDYCAR 佐藤琢磨コメント76 R15 MAV TV 500 フォンタナ Day1 プラクティス1「ほとんど何もできないまま終わってしまいました。予選は様子を見ながら、テストセッション的な要素が大きいものになりそうです」

R15 MAV TV 500
カリフォルニア州フォンタナ
オートクラブ・スピードウェイ
2マイル・スーパースピードウェイ×250周

Day1 プラクティス1
17位 34秒1331 210.939mph(=339.401km/h) 19周走行


予選前唯一のプラクティスで思うように周回数をこなせず

 インディーカーは水曜にフォンタナでのテスト(参加は任意)を設定したことから、公式日程の金曜は走行セッション数が少ないスケジュールを採用した。ただし、各セッションの時間は長めにセットされている。1回目が90分間、ファイナルは45分間だ。
 予選に向けた準備ができるのは今日の最初のセッションだけ。レース用セッティングのファインチューニングは予選後のファイナルプラクティスでやれ、ということだ。
 佐藤琢磨とレイホール・レターマン・ラニガン・レーシングは、90分間のプラクティスで狙っていた通りのマシンを作り上げることができなかった。限られたデータから予選用セッティングをひねり出さなくてはいけない。

「ダウンフォースはすでに目いっぱいですが、まったく踏めません」

Jack Amano(以下――):90分あったプラクティス・セッションでしたが、意外と周回数は少なかったですね。19周でした。
佐藤琢磨:少なかったですね。走りたかったんだけど、走れなかった。最初、1回目のランで3~4周でピットに帰って来たのは、前のテストと比べて風向きも変わった事もあって、全体的なスピードも上がってたんでギヤレシオの交換をしたんです。その後には、ホンダ・ユーザーの間でマッピングのキャリブレーションをしなくちゃいけなくて、それで待ちの時間が長かったですね。それから、イエローも何度か出たし、コース上でのアクシデントもあったりで、ほとんど出て行けなかった。テスト・アイテムは山のようにあるんですよ、僕らは一昨日のテストがを走れなかったのでね。でも、ほとんど何もできないままでした。最後の走行もニュータイヤで出てったんだけど全然スピードが伸びなくて、クルマはフラフラだし……次は予選て言われてもね、2010年のもてぎの予選みたいだね、まったくわからない状態のまま試さないと行けないんで。ホント、どこまで(アクセルを)踏んで行けるかわからないですね。非常に不安定で怖いです。

――ソノマでのレースの前に来たテストの時と、今回のフォンタナ用にインディーカーが決定したエアロパッケージは結構違うんですか? 似てるんですか?
佐藤琢磨:えーっとねぇ、僕らは同じですね。ほぼ同じ。ソノマのテストの後に来た時は非常に軽いダウンフォースをみつくろってやったので、インディーカーはその後もディフューザーのストレークとかを着けたり、着けなかったりを色々なドライバーたちで試して、その後にテストを1回やって、一昨日のテストで最終的に決定したんですけど、基本的には全部(ダウンフォースを生み出すパーツは)外すってこと。ダウンフォース的にはものすごく軽い状態なので、(僕らのマシンは今日、ウィングの角度とかは)全部つけてるんです。ウィングの角度も全開だし、これ以上ダウンフォース上げられないんだけど、まったく踏めないですね。どうやって(ライアン・ブリスコーみたいに)217マイルなんて出すのかわかんない。最後、僕はニュータイヤで206とか207mphだったからね(*実際には206~208mph台)。

「レースが長いので、とにかくそれに合わせたクルマ作りをやっていきます」

――今日は風がかなり強い。それもドライビングを難しくしていますか?
佐藤琢磨:そうですね。走り出しの時の方がまだ風は落ち着いてたと思う。ただ、ラバーがまだ載ってなかったんだけど、自分のベストラップもホントに出てってすぐだった。インスタレーションラップが終わって、出てった時の2周目ぐらいだったでしょ? その頃は風は穏やかだったので走り易かった。その後、風が吹き出してマシンはかなり不安定になって来ちゃいました。

――予選はどんぐらい行けそう?
佐藤琢磨:ウーン……ちょっと今収集したデータがあまりにも少ないので、そこからもうもちろんベストでやって行きたいけど、無理もしたくないし……まぁ、もう煮え切らない感じというか、思い切り攻めれるような予選状態では全然ないですね。様子を見ながら、とりあえずはテストセッション的な要素が非常に大きい予選になりそうな気がします。少なくとも僕たちはまったく準備ができてない、残念ながら。

――夕方のファイナルプラクティスと併せて……みたいな考え方ですか?
佐藤琢磨:そうですね。夕方のセッションはもう正直言って、もう完全にトラフィックの中を走らないといけない。でも、単独でもフラフラなのにどうやって集団の中で走れるのか、ちょっと今わかんないんだけど、まぁ夕方になれば……。でも、5時でしたっけ? まだ華氏100度オーバーの可能性がある。まだ暑そうなので、どうなるかわからないです。
とにかく安定したクルマ、レースが長いので、それに合わせたクルマ作りをやって行きます。

2012 INDYCAR レポート R15 MAV TV 500 フォンタナ Day1 プラクティス1:最速はライアン・ブリスコー。スピードは217マイル台へ。昨シーズン終盤にキャリア初勝利を飾ったエド・カーペンターが2番手と好調

猛暑と風の中で始まった最終戦

 フォンタナのプラクティスはすごい暑さの中で開催された。90分間のセッションは終盤に気温が37℃にも達していた! 路面は56度だった。しかも、セッション途中から出て来た風が結構な強さで、全長2マイルの巨大なコースではマシンのハンドリングに大きな影響を与えていた。
 最速はライアン・ブリスコー(チーム・ペンスキー)=217.517mph=33秒1008で、2番手はエド・カーペンター(エド・カーペンター・レーシング)の216.971mph=33秒1842。3番手はダリオ・フランキッティ(チップ・ガナッシ・レーシング)の216.545mph=33秒2495で、4番手はウィル・パワー(チーム・ペンスキー)の216.443mph=33秒2651。5番手はエリオ・カストロネベス(チーム・ペンスキー)の216.355mph=33秒2787で、水曜のテストで最速だったスコット・ディクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)が216.211mph=33秒3008で6番手だった。トップと2番手の差は0.0834秒で、トップ6はちょうど0.2秒の差に収まった。
 

ハンター-レイは決勝用セッティングに集中

 ポイント2位のライアン・ハンター-レイ(アンドレッティ・オートスポート)は211.274mphのベストで16番手。これは彼らが予選をまったく意識せず、決勝用セッティングに徹していたからだ。テストでのクラッシュ、エンジン交換により10グリッド降格が既に決定している彼らとしては、予選をほぼ無視してかかっているのだろう。ジェイムズ・ヒンチクリフ(アンドレッティ・オートスポート)とのタンデム走行で二人はトラフィックでのハンドリング・チェックをハンター-レイは行っていた。スポット参戦のセバスチャン・サーヴェドラ(アンドレッティ・オートスポート)はより多くの周回をこなしてマシンとコースに慣れることに専念。マルコ・アンドレッティ(アンドレッティ・オートスポート)が215.166mphのベストで8番手とまずまずの位置につけた。予選シミュレーションは彼だけが行なった、ということと見られる。
 佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)は19周を走った。ベストは5周目の210.939mph=34秒1331は、トップと1秒以上と大きな差がついている。

2012 INDYCAR インサイド情報ニュース:R15 MAV TV フォンタナ 水曜日の合同テストに22台参加。ディクソンがトップタイムをマーク

水曜日、22台が合同テストに参加
 

 最終戦の週末を目前に控えた水曜日、カリフォルニア州フォンタナのオートクラブ・スピードウェイで合同テストが行われた。レースが土曜日の夜のため、このテストも正午から夜の8時まで開催され、22台がエントリーした。
 走行時間終了が近づくとコース上ではマシン同士が接近した状態で走るようになり、上位17台は0.4043秒という僅差内に収まった。フォンタナでの最終戦も凄まじい接戦になるということだ。
 最終的にトップタイムを出したのはスコット・ディクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)だった。平均スピード215.861mph(=約347.320km/h)のラップだった。しかも、彼は誰のトウも受けずにこのスピードをマーク。フォンタナにコース全長が近いインディアナポリス・モーター・スピードウェイで行なわれたインディー500、今年の優勝はダリオ・フランキッティでディクソンは2位だった。彼らのマシンの仕上がり具合が現状ではベストで、ライバル勢をやや突き放しているようだ。
 実はディクソン、この水曜日のテスト序盤にエンジントラブルが発生。フレッシュエンジンに載せ換えて夕方に走行再開となっていた。エンジンを換装したらグリッド降格のペナルティを受けねばならなくなるが、フォンタナはオーバーテイクが可能なオーバル・レースである上、500マイルの長距離での戦いでもあり、決定的な不利とはならないだろう。スタート直後に多重アクシデントでも発生すれば話は別だが……。
 ディクソンのフォンタナでの目標は、優勝(シーズン3勝目)か上位フィニッシュを果たし、年間ランキングを4位からひとつ上の3位に上げることに置かれている。3位につけているのはエリオ・カストロネベス(チーム・ペンスキー)。二人の間にある差はたった1点なので、上位でフィニッシュした方がランキング3位となれる。
  対するカストロネベスは、自らのランキング3位も大事だし、オーバルチャンピオンシップ=AJ・フォイト・トロフィー獲得のチャンスも十分にある(トップと23点差)。しかし、それらよりもチームメイトのタイトル獲得に少しでも寄与することが優先される。ポイント2位のライアン・ハンター-レイ(アンドレッティ・オートスポート)より上位でフィニッシュすることが彼のフォンタナでの使命となる。上位フィニッシュならオーバルチャンピオンシップもランキング3位も実現できる可能性がある。

ハンター-レイは走行開始から2時間余りでクラッシュ!


 オーバルポイントはトップがハンター-レイ=136点。勝利ゼロながら同点のトニー・カナーン(KVレーシング・テクノロジー)が2位。3位がジェイムズ・ヒンチクリフ(アンドレッティ・オートスポート)=121点。カストロネベスは113点で4位。5位のジャスティン・ウィルソン(デイル・コイン・レーシング)=112点までに現実的なチャンスがある。
 シリーズチャンピオンとオーバルチャンピオン、両方を獲得できる可能性があるハンター-レイだが、彼はこのテストでクラッシュしてしまった。走行開始から僅かに2時間しか経過していないタイミングで、ターン2の壁にぶつかった。貴重なテスト時間を5時間ほども失ったのは大きな痛手。また、このアクシデントでエンジンにもダメージは及び、新エンジンに換装された。彼もまた10グリッドの降格となる。
 「マシンのダメージはそんなに酷くはない。2人のチームメイトがガンガン走ってくれているから、データやセッティングに関しても心配はない」とハンター-レイは強がっていたが、自ら走行データを得られなかったのは明らかに大きなマイナスだ。
 「チャレンジャーである自分たちの方が有利。シーズン中の大半で僕は追いかける立場だったし」とも彼はコメントした。
 彼とポイントトップのウィル・パワー(チーム・ペンスキー)、どちらが精神的優位に立ってレースを迎え、戦うこととなるかは、とても興味深いところだ。二人とも初めてのインディーカー・タイトル獲得を目指しているが、パワーが10、11年と2年続けて最終戦までタイトルを争った経験を持っているのに対し、ハンター-レイは初めてのチャンス。この差がどう出るか。2回逃しているパワーの方がプレッシャーが大きいという考え方もできないことはない。
 ハンター-レイの最終戦直前のアクシデントが、彼にとってプラスに作用する可能性もある。ポイント2位で追う立場の彼とすれば、この後退を機に完全に開き直り、思う存分戦えるようになるかもしれないからだ。レースウィークエンド前のミスにより、レース本番での集中力を高めることになる可能性もある。
 1日のテストでEJ・ビソ(KVレーシング・テクノロジー)とブリスコーもアクシデントを起こした。ブリスコーのものは走行時間がちょうど終了したタイミングでのものだったが、ビソのアクシデントは40周しか走ってない時に起きた。
 テストの2番時計はマルコ・アンドレッティ(アンドレッティ・オートスポート)だった。平均時速215.779mph(=約347.188km/h)を日中にマークしたところがポイント。ハンター-レイにとってはありがたいパフォーマンスだ。フォンタナにはセバスチャン・サーヴェドラもスポット参戦するため、ジェイムズ・ヒンチクリフフもいるハンター-レイは、パワーよりひとり多い3人のチームメイトとデータ共有ができる。
 前の週にもフォンタナでのテストを行っているパワーは、215.761mph(=約347.159km/h)ラップで3番手につけた。チームメイトのブリスコーが215.133mph(=約346.149km/h)で4番手。ペンスキー勢もマシンセッティングの進み具合はまずまずということだ。
 「いいスタートが切れたと思う。マシンはテストデイが進む中で着々と良くなって行った。予選に向けての仕上がりも良いと思う。あとはやるべきことをやるだけだ」とパワーは語った。いったい彼はどんな気持ちで、どれだけの余裕を持って、あるいは持たずに週末を迎えるのだろうか。

マイク・コンウェイに代わってウェイド・カニンガムが参戦


 テストが終わった翌日、衝撃的な発表が行われた。マイク・コンウェイ(AJ・フォイト・エンタープライゼス)が最終戦に出場しないことを決意したというのだ。テストを走っていたコンウェイだったが、フォイトのチームはインディー500で2台目に乗せたウェイド・カニンガムに急遽登場願うこととなった。
 コンウェイは、「僕のレースキャリアの中で最も難しい決断だった。僕はまだオーバルをストレスなく走ることができていない。今後もオーバルでのレースは走りたくない」というコメントを発表している。「レースをやめたいワケではないし、AJ・フォイト・レーシングとの活動も続けて行きたいが、この問題は近い将来にチームと話し合わなければならない」とコンウェイは語った。
 2年前のインディー500でのアクシデントが彼の頭から離れないのだろう。ゴール目前、ターン3で他車と接触、宙に浮き上がったコンウェイはフェンスに激突した。恐ろしいアクシデントだった。彼は負傷し、そのシーズンをほぼ棒に振った。今年のインディー500には出場したコンウェイだったが、フォンタナでは何かがシックリ来なかったようだ。
 オーバルのパーセンテージが減っているインディーカー・シリーズではあるが、「オーバルレースには出場しない」という参戦形態は交渉によって可能となるんだろうか? もしAJ・フォイト・エンタープライゼスがそうすることを決断する場合、オーバル要員には誰を起用するだろう?
 最後にチャンピオン争いの行方だが、果たしてどうなるのだろう?

チャンピオン確定のシチュエーションは?

 候補は二人。彼らの間にあるポイント差は17点と少ないが、やっぱりポイントをリードしてる方がチャンピオン争いでは有利だ。当たり前のことだけが……。
 ポイントトップのパワーの場合、ポイント2位のハンター-レイより上の順位でフィニッシュすれば念願のチャンピオンとなれる。ポイント2位のハンター-レイがポールポジションと最多リードラップのボーナス合計3点を全部獲得して優勝した場合(=最多の53点をゲット)でも、パワーは2位フィニッシュすればチャンピオンになれるのだ。
ハンター-レイが、ポールは獲れなかったが優勝し、2点のボーナスを獲得(最多リードラップ記録)した場合、パワーがポールポジションを獲得できていたら3位フィニッシュでチャンピオン。ポールが獲れていなかった場合は2位フィニッシュでチャンピオンだ。
 ハンター-レイがポールポジションを獲得し、レースで優勝。しかし、最多リードラップは記録できなかったとすると、パワーは3位以上でゴールすればチャンピオンだ。
 逆に、パワーがレースに出走したものの25位か26位という下位でのゴールとなった場合、ハンター-レイは6位以上でフィニッシュすればタイトルを獲れる。パワーが決勝レースをスタートし、18~24位でフィニッシュの場合だと、ハンター-レイはボーナスポイントの有無に関係なく、5位以上でフィニッシュすればタイトルに輝く。ハンター-レイがボーナスポイントなしで優勝した場合、パワーは最多リードラップを記録して4位フィニッシュすればチャンピオン。ボーナスなしなら3位フィニッシュでタイトルを手にできる。なお、両者が同ポイントとなった場合は、4勝のハンター-レイが3勝のパワーを抑えてチャンピオンとなる。

2012年9月14日金曜日

2012 INDYCAR R15 MAV TV 500 プレビュー: 鍵握る空力パッケージのさじ加減。タイトル争いはもちろん、エンジン戦争の行方など見どころ満載。琢磨のトップ争いも期待大


エアロパッケージ決定はレース直前

Jack Amano(以下JA):早いねー、もう最終戦だ。

編集部(以下――):フォンタナ(オートクラブ・スピードウェイ)はどんなレースになるだろう?

JA:全然読めない。まず、空力ルールがどうなるんだか……。

――佐藤琢磨選手がテストした時点では決まってなかった。

JA:そう。彼がテストしたのはソノマのレースの前だったから。でも、走る仕様が決まってない状態でテスト……って、コースを知るってことはできたんだろうけど。

――もっとルールは早く決まってるべきだよね。

JA:まったくその通り。でも、今年は仕方が無い面もある。新シャシーが導入されたから。あと、ダン・ウェルドンが亡くなって高速集団レースは二度とやらないって考えにインディーカー全体がなった。フォンタナについても、インディーカーがエアロパッケージを幾つか用意して、テスト参加チームに別々のものをトライしてもらって検討を重ねて来てるみたいだね。インディーカーは各マシンの走行タイム、タイヤのコンディション、ドライバーからのフィードバックなどを総合的に見て、空力仕様を決めようってこと。ボルティモアの後にもテストが行なわれたけど、ルールの最終決定はレース直前になる。レースウィークエンド目前の水曜にテストがあるので、そこで全ドライバーに同じ仕様で走ってもらって合意を取り付けて……みたいな感じと思う。翌々日の金曜に公式プラクティス開始となるワケだけど。

テキサスのようなスリリングなレースを期待

――今年のIZODインディーカー・シリーズ、オーバル戦はどれもおもしろかったもんね? ロードコースも……だけど。

JA:インディーカーのエアロパッケージ・コントロールはかなり上手だった。技術面を統括するよう雇われたウィル・フィリップスって元シャシーデザイナーがいい仕事をしてる。エンジンのルールに関しては、プッシュ・トゥ・パスのディレイとかイマイチのもあったけど。

――フォンタナは2マイル・オーバルだから、基本的にはインディアナポリス・モーター・スピードウェイと似たエアロ・パッケージってことなんだよね?

JA:そうなると思う。でも、インディーとまったく同一にはならないって話。どんな調整を、どんな理由で行って来るのか。そこがまだ見えてない。「ダウンフォースを削り過ぎては危険」て意見もある。あまり削るとオーバーテイクがなくなって、あり過ぎるとパックレーシングになっちゃう。そのサジ加減は実に難しい。

――いずれにせよ、抜きつ抜かれつのバトルが見られる。

JA:去年までの1.5マイル・オーバルみたいな集団走行にならずに、ね。期待してんのは、今年のテキサスみたいなバトル。めちゃスリリングだったよね。速く走るにはウデが要って、ミスの許容度がメチャクチャ小さい。かなり理想的だった。

――あんな凄い戦いになるとは! って嬉しい驚きだった。それがフォンタナでは500マイルレースで行われる。

JA:作戦も、ピット・ストップも重要度高し! あと、琢磨選手が驚いていた路面のバンピーさ。これがレースをさらに難しくすると思う。

――超高速オーバルなのにバンピーって理解に苦しむけど。

JA:NASCAR専用コースみたいになってたからね、最近のフォンタナは。ストックカーのレースって路面のクォリティを必要としない。むしバンピーな方がいいぐらいでしょ。でも、インディーカーのレースをやるなら路面の管理は要求される。ウルトラスムーズじゃなくてもいいんだよ。ひとつやふたつのバンプはコースのキャラクターってコトで受け入れられるから。でも、「凄いバンピー!」なんてコメントされてるようじゃ困る。

フォンタナ開催に潜むINDYCARのNASCARに対する思惑

――フォンタナでやることになったのって、結構唐突だったよね?

JA:インディーカーとしては、NASCARとの対決状況を少しマイルドにしたかったんでしょ。ワトキンス・グレンとかカンザス、シカゴとNASCAR系からレースを全部引き上げた。あのランディー・バーナードの戦略は間違ってなかったと思う。でも、それを緩和するのが早過ぎと思う。そもそも俺は、「NASCARとの全面対決での勝利なくしてインディーカーは繁栄奪回は不可能」って意見だから。

――しかし、NASCARはかなり手強い相手。

JA:ホントに。最近発表されたスポーツカーの一件を見れば明らかだよね。アメリカン・ル・マン・シリーズを運営するIMSA=インターナショナル・モーター・スポーツ・アソシエーションを買い取っちゃったんだから、NASCARは。自分たちのダサいスポーツカー・シリーズ=グランダムをアメリカのスポーツカー・レースのメインにしようって魂胆。スポーツカーは魅力の無いレースに格下げされ、自分たちのストックカーだけが繁栄を続けるという超利己的シナリオ。ル・マンとの関係も徐々にフェード・アウトさせて行く気じゃないの? ヨーロッパのアメリカに対する影響力を排除するってのが彼らの長期プランでしょ。俺がアメリカにフリーで渡った90年にでさえ、そういう考えに基づく行動、あったもん。彼らはF1ともグルじゃないかな。利益が共通してるから。インディーカーは90年代にF1を少々ビビらせた。海外進出とかハデにやって。それで彼らのタッグにヤッツケられた。スポーツカー・レースはある意味、インディーカー以上にF1にとっちゃ厄介な存在なんだ。ハイブリッドだとか今年のデルタウィングとかの新しいもの、世界の人々が求めている技術の受け入れが可能な構造になってるから。F1にそんな柔軟性ってない。……って、フォンタナのインディーカーの話から随分逸れちゃった。

パワーvsハンター‐レイ、チャンピオン争いの行方は?

――フォンタナはチャンピオン争いが第一の焦点。

JA:ウィル・パワーとライアン・ハンター-レイ(RHR)の対決だ。ランク3、4位は上位二人が出場しないとかじゃないと逆転タイトルの目はない。

――どっちが有利?

JA:ポイント上位のパワーが有利だけど、その差はほとんどゼロでしょ。上位でフィニッシュした方がチャンピオンてことじゃないのかな? 片方がクラッシュするとか。

――両方とも不運なタイプのドライバーだけど、幸運を手にするのはどっちか??

JA:プレッシャーが大きいのはパワーの方だろうなぁ。この2年続けて獲り逃してるタイトルだから。RHRは当たって砕けろってスタンスでオッケーでしょ。

――チーム体制、今年のオーバルでの実績からするとRHR優位じゃない?

JA:RHRはオーバルで勝ってるから? でも、ミルウォーキーとアイオワっていうフォンタナとは全然キャラの違うコースじゃん。それでも、「オラはオーバルで勝ってる。ヤツは勝ってねぇ」って考え方、してるかもね。あんまり論理的じゃなくても、精神的にプラスの影響があるかも。

――インディー500ではRHRが駆動系トラブルで27位。パワーはクラッシュで28位だった。

JA:パワーはオーバルでのアクシデントが多過ぎ。速さはもう完全に身につけてんだけどね。去年のインディーでのポール争いも素晴らしかったし、去年のテキサスでの第二レースではオーバル初勝利も飾ってる。ケンタッキーでもメチャ速かった。テキサスの勝利はグリッドがクジ引きで、強敵が最後尾に近いグリッドになってたからっていうラッキーもあったけど。フォンタナでは絶対にクラッシュだけは避けないと。

――マシンの仕上がりって面で、チーム比較をするとどうなる?

JA:インディー500ではライアン・ブリスコーが5位フィニッシュしてて、ペンスキーのマシンは良かったと思う。でも、RHRのチームメイトのジェイムズ・ヒンチクリフも6位。チーム力的には互角かな? テキサスでもブリスコーが3位、ヒンチが4位だった。

――彼らは優勝争いに絡むのかな?

JA:どうだろうね? チャンピオン争いがレースの優勝争いとシンクロするのがベストだけど、そうならない可能性も十分ある。例えば、チップ・ガナッシ・レーシングがインディー500同様に大活躍するとか。

ホンダ勢、全車新スペック投入! シボレーはどうなる??

――最終戦はホンダとしても勝ちたいレースだ。

JA:今年はインディー500で勝ったホンダだったけど、シーズンを通してシボレー勢が速かった。エンジンの差というより、チーム力の差が強く影響していたと思うけど。フォンタナでは勝ち負けだけじゃなく、レース中のホンダとシボレーのエンジン・パフォーマンスにも注目したいね。インディーに続いてフォンタナでもホンダ勢優位となるのか? パワー&燃費がどういう差になってるのかはミモノだね。

――ホンダ勢は予選終了後に新スペックを全チームに導入するって話だよね?

JA:そう。全員に10グリッド降格を受け入れさせちゃう。でも、シボレーも同じく最新スペックで勝負を仕掛けて来るって噂もある。両陣営がグリッド降格ペナルティだったら、ペナルティはナシとほぼ同じになる。でも、チャンピオン争いをしている2名がいるシボレーとしては、新スペックを投入するのってリスクかも。パワーでホンダに対抗しようとして、タイトル候補がエンジン・トラブルでリタイア……なんて逆の宣伝効果を発揮しちゃいそう。

――そこは難しい選択だ。より耐久性で安心なものをチャンピオン候補たちには使わせたい。でも、パワー追求をしたエンジンでないとホンダ勢に負けちゃうかもしれない。

JA:そうだよね。フォンタナはアメリカン・ホンダにとっちゃ地元。4月のロング・ビーチで負けてる身としては、今回は勝ちたいモードがかなり高い。年間優勝数でもシボレーが10勝、ホンダ4勝と水を開けられてるし、来年に向けて良いムードを作るためにも最終戦は勝ちたいとこでしょう。

佐藤琢磨、優勝に向けて今シーズン最後の戦い

――琢磨はどんなレースができそうかな?

JA:テストでの感触は今ひとつだった風。2台での走行はアブナっかしくて無理だったっていうから、インディーカーに依頼されてたエアロ・パッケージが結構エグかったんだろうけど、マシンの仕上がり自体はまだ全然進んでないってことなんだと思う。ルールが決まらないと進め切れない部分でもあるし。で、ボルティモアの後にはテストに行けなかった。琢磨に期待ができるのは、インディー500で優勝にあと一歩のところまで行った、あのパフォーマンス。まずはロー・ダウンフォースで走る超高速オーバルでのレイホール・レターマン・ラニガン・レーシングのベース・セッティング、その競争力が高いことと期待したい。フォンタナはインディーみたく走り込んで戦えるレースじゃない。そこはデータ解析力の高い琢磨&RLLとしては苦しいところ。でも、琢磨はパワーと同じで、アクシデントさえ起こさなければかなり速いから。オーバルは経験が重要なのは確かだけど、3シーズン目という限られた経験の中で獲得したノウハウはかなり濃いものがある。初めて走ったオーバルででさえ、どうやったらライバルを抜けるか、オーバーテイクの手法をレース中に習得して行ってた。今や、もう十分にトップ争いのできるオーバル・ドライバーになってる。

――最終戦で優勝! なんてなったら最高。

JA:初ポールもオーバルだったし、オーバルで初勝利という可能性はあるんじゃない?

以上