2011年7月29日金曜日

2011 INDYCAR レースアナリシス R10 エドモントン インディ その2:無謀な攻撃の犠牲になったドライバー多数。厳しいペナルティが必要では?

手に汗握る戦いも観られたが、無謀な特攻も少なくなかった。
Photo:INDYCAR(Shawn Gritzmacher)
 トロントでの第9戦、インディカーはペナルティを課すべきドライバーにペナルティを出さなかった。その反省からか、第10戦はペナルティ続出となった。

 一番ひどかったのは、アレックス・タグリアーニ(サム・シュミット・モータースポーツ)が1周目に起こしたアクシデント。アレは楽観的なんてものじゃなく、完全に無謀なトライだった。一気に数台をパスできると考えたようだったが、彼のマシンは明らかなオーバースピードでヘアピンコーナーに進入。減速を終えて曲がり切ることができず、グレアム・レイホール(チップ・ガナッシ・レーシング)が哀れな犠牲者となった。その上、このアクシデントの影響でポール・トレイシー(ドラゴン・レーシング)も0周リタイアを強いられ、セバスチャン・サーベドラ(コンクエスト・レーシング)もマシンに大きなダメージを負った。
 次にひどかったのがライアン・ハンター-レイ(アンドレッティ・オートスポーツ)の引き起こしたアクシデントだった。彼の突っ込んだ相手は佐藤琢磨(KVレーシングテクノロジー・ロータス)。あのアタックも楽観的という表現を完全に越えたメチャクチャさだった。まだ並びかけてもいない相手を弾き飛ばしたのだ。最近レースを始めたばかりのアマチュア以下とでも言うべきトライだった。

 レース終了直後、ハンター-レイは琢磨に詫びに来て、「絶対に抜けない状況で突っ込んでしまった。あれは僕のミスだった」と話したそうだが、アンドレッティ・オートスポーツが暫くして発表したリリースでは、「1列に並んでジッと待っているより、チャンスに賭けてアタックするのが僕のスタイル」なんていう噴飯モノのコメントを出していた。自分のミスを認めたコメントに続く言葉ではあったが、「俺、またやるよ、こういう(馬鹿げた)アタック」と宣言しているのと同じである。今回のアクシデントに関して、自分のミスを反省している様子は感じられない。
 アメリカ人気質はチャレンジに肯定的で、それに伴うミスに寛容だ。よく言えばポジティブで、羨ましいと感ずる時もあるが、今回のハンター-レイのように、「ミスは誰でもするものじゃないか」と開き直り、反省をあまりしないケースも少なくない。

 EJ・ビソ(KVレーシングテクノロジー・ロータス)がスコット・ディクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)に激突したアクシデントは、少々同情する事情があった。あの時、彼はコンウェイを抜きにかかっていた。だというのに、さらにそのイン側にダリオ・フランキッティ(チップ・ガナッシ・レーシング)がノーズを押し込んできた。フランキッティの動きが影響して発生した事故であったのは間違いない。フランキッティはギリギリで身を引いて誰にも接触しなかったので、レース後に非難されることもなかった。対するビソは、ブレーキングを失敗しただけでなく、ディクソンの土手っ腹に突っ込んで彼のタイトルへの望みを絶ってしまったものだから悪者扱いとなった。
 ビソが冒したミスは大きかった。責められても仕方ない。しかし、アウト側にコンウェイがいた彼としては、インにもう1台が入って来たことで行き場を失い、それがミスを誘発したように映った。フランキッティの取った行動がアクシデントの引き金を引いた。そこまでペナルティの対象にすべきだとは言いにくいが、「ビソは遥か彼方の、絶対に抜ける可能性などないディクソンをパスしようと突っ込んで行き、彼に突っ込んだ」というレース後のフランキッティの証言コメントには違和感があった。彼ほどのドライバーにコンウェイの存在が見えてなかったとは思えないので。

 そのコンウェイがオリオール・セルビア(ニューマン・ハース・レーシング)をタイヤバリアへと弾き飛ばしたアクシデントも大きなものだった。まるでセルビアがイン側を開けてくれるものと信じて疑っていないかのような走りをコンウェイはしていた。セルビアにその気はゼロだったから、2台は激しく接触。
 ハンター-レイが琢磨に仕掛けたオーバーテイクも、コンウェイ&セルビアのものとある意味ではまったく同じだった。彼らは、インに入る意思表示をしたら、前を走るマシンは自動的にラインを譲ってくれるとでも考えているかのようだった。

 今回のインディカーはペナルティを的確に出していたと思うが、ペナルティそのものの在り方についても考えさせられた。例えば、ビソはアクシデント後にエンジンストールしてラップダウンに陥ったためにペナルティを課されなかったのだが、他の3人はペナルティ=グリーン下でのピット・ドライブスルー=の対象となった。しかし実際には、タグリアーニに対するペナルティは、まったくペナルティの意味をなしていなかったのだ。彼がマシンへのダメージを修理するためのピットインを行った直後、2回目のフルコースコーションが発生。ステイアウトした彼はレース再開時に2位を走っていた。ペナルティが彼に順位を大幅に上げるチャンスを与えたということだ。もちろん、サム・シュミット・モータースポーツのピットが賢くフルコースコーションを活用したという捉え方もできるが、実際にはペナルティを受けてラッキー、という状況だった。ハンター-レイの場合は、その後にフルコースコーションが一度も出されなかったのでペナルティがペナルティとしての効力を発揮していた。

 ペナルティには種類が必要だということだ。何段階か、厳しさの異なるものが要る。そもそも、エドモントンでのタグリアーニとハンター-レイが起こしたアクシデントは、ピットのドライブスルーなんて生ぬるいもので済まされるべきではなかった。ポイント剥奪(全部もしくは一部)とか、シーズン終了までを執行猶予期間として、この間に同じようなアクシデントを起こした場合には1戦もしくは数戦の出場停止……などの厳しい措置が必要だと思う。
 前戦のトロントを振り返ると、タグリアーニはウィル・パワー(チーム・ペンスキー)を斜め後方から突き飛ばし、ハンター-レイはレイホールをレース終盤にスピンさせている。インディカーは今後のレースでは、彼らの走行マナーを注視する必要がある。

2 件のコメント:

  1. 今年のインディ500でのファイナルラップのフルコースコーションの件から、インディカーの判定は恣意的に行っているのではないかと勘繰るようになってしまった。
    F1とは違いインディカーに政治色は無縁と思っていたのだが……

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  2. しいな さん、取材されている各方面から聞こえてくる言葉を総合すると、ドタバタしている印象があるようです。それが政治的なのか、単純に運営で右往左往しているのかはわかりませんが……。しかし、その後の記事にあるように、“執行猶予”が科されたので、この先のジャッジに注目したいですね。(更新係)

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