2018年4月13日金曜日

2018 INDYCAR レース・アナリシス R2 フェニックス:オーバーテイク満載じゃなくてもエキサイティングなレース

ユニバーサル・エアロでの初のショートオーバルは、オーバーテイクが難しいレースとなったが、また見どころの多い一戦でもあった Photo:INDYCAR (Chris Owens) クリックして拡大
圧倒的だったロッシの速さ! ただ1台、自由自在のラインどり
 
 フェニックスでの第2戦、新エアロでの初オーバル・レースということで注目された。オーバーテイクは確かに少なかった。しかし、パスが可能な人には可能だった。実力拮抗の度合いが進み、チーム間、ドライバー間のスピード差が減っているからこそ、タイミングを狙い澄まして実現されるオーバーテイクには大きな価値がある。
 フェニックスでのヒーローはアレクサンダー・ロッシ(アンドレッティ・オートスポート)はこの日のヒーローだった。最初のピット・ストップでのミスがなかったら、大半のドライバーを周回遅れに陥れての圧勝を飾っていただろう。カテゴリーが違うんじゃないかと思ってしまうほどのスピード差を見せつけ、次から次へと前を行くマシンをパス。イエローの力を借りずに自力で1ラップ・ダウンを取り戻してしまう……なんて最近見てなかった気がする。ショート・オーバルでは時として圧倒的スピードを実現する人が現れる。ピタリと決まったセッティングでただひとり悠々と波に乗って走る。今回は走行ラインが狭く、それを外れるとタイヤかすに乗ってクラッシュする危険があったが、ロッシだけはそれを気にしていないかのように自由自在に走っていた。




ポールポジションから快走を見せていたブルデイだったが思わぬピットミスでペナルティを与えられて後退。同じミスを犯したロッシはしかし、自力でポジションアップに成功する Photo:INDYCAR (Chris Owens) クリックして拡大
不可解だったトップ3のピットイン・ミス

 不思議なのは、なぜ予選トップ3が揃ってフロント・タイヤ・チェンジャーにぶつかるミスを冒したのか。今回がインディーカー・デビューだったルーキーのカイル・カイザー(フンコス・レーシング)にはエリオ・カストロネヴェスがドライヴィング・コーチについていたが、彼がレース前にしたアドバイスのひとつが、「ピット・ロードは非常に滑るから十分気をつけて」というものだったという。ロッシ、セバスチャン・ブルデイ(デイル・コイン・レーシング・ウィズ・ヴァッサー・サリヴァン)、シモン・パジェノー(チーム・ペンスキー)がそれを知らなかったとは考えにくいが……。
 そして、ロッシが3位まで挽回してゴールしたのに対して、パジェノーは10位、ブルデイは13位という結果に終わった。ロッシは恐れを知らない若さを背景に、リスクを厭わない走りを続けて鬼神の追い上げを見せていた、ということか?
 だとしたら、今後そういうバトルを戦える彼、あるいは若手たちがますます活躍をするようになるということか。

ウィッケンズ、初オーバル2位!今季2戦を終え、際立つ若手の速さ
 

2位のウィッケンズと3位のロッシ。開幕戦では優勝争いでクラッシュし、因縁が生じた二人だが、第2戦でも速さを見せつけて、ともに今シーズン目が離せない存在に Photo:INDYCAR (Chris Jones) クリックして拡大 
 今シーズンは開幕戦から若手が速い。セントピーターズバーグでポール・ポジションを獲得し、レースも優勝目前だったロバート・ウィッケンズ(シュミット・ピーターソン・モータースポーツ)は、今回も初オーバルで予選6位に食い込み、ゴールまで7周のリスタートではトップを走っていた。ギャンブル的要素を含んだ作戦によって手に入れたトップは、結局そうなる前に彼の前を走っていたジョセフ・ニューガーデン(チーム・ペンスキー)に奪い返されてしまうが、今回は完走を果たして2位フィニッシュ。レースを通してスピードに安定感があり、先輩チームメイトのジェイムズ・ヒンチクリフがバック・マーカーのパスし損ねた隙をついて前に出るなど、ルーキーとは思えない戦いぶりだった。本人も「初オーバルで2位なら大満足」と話していたが、彼のようなドライバーが出現すると、「オーバルには豊富な経験が必要。簡単に短時間でマスターできるものではない」という昔から聞かされて来た説が揺らいでしまう。ウィッケンズは例外中の例外。それだけの才能の持ち主ということか?

またしても勝負強さを発揮したチャンピオン、ニューガーデン
 

ウィッケンズをアウトサイドパスしてトップに立ったニューガーデン。タクティクスにも助けられたが勝負所での強さはさすがチャンピオンだ Photo:INDYCAR (Chris Owens) クリックして拡大
 そしてウィナーはジョセフ・ニューガーデン(チーム・ペンスキー)。パジェノーがピットでクルーにぶつかり、ウィル・パワーは単独クラッシュと、先輩たちがミスをしたレースでニューガーデンは勝った。昨年の彼の4勝のうち、ヴェテラン・チームメイトをズバッとパスして勝ったレースが2回あった(ゲイトウェイはパジェノーにぶつかったので物議を醸したけど)が、残る2勝は幸運も手伝ってトップに立ち、そこから逃げ切っての勝利だった。与えられた状況を優位に変える不思議な力が彼には備わっているように思える。

テストのときの良さを生かせなかったレイホール陣営


フェニックス合同テストでは圧倒的な仕上がりを見せたレイホール陣営だったが、今回の暑いコンディションにマシンを合わせきれず苦しい戦いを強いられた Photo:INDYCAR (Chris Owens) クリックして拡大
  佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)は、開幕前テストでトップ・タイムを出していただけに、予選13位/決勝11位は本人もチームも納得の行かないパフォーマンスだった。
「残念ながら僕らはコンディションが暑くなってマシンが悪くなったグループに入っていた。テストが良いと大きく変えたくない。コンディションに合わせ込むという意味では、確かに失敗だったけれど、僕らとしてはコンディションがテストの時より悪くなっても(暑くなっても)自分たちはコンペティティブであろうと考えていた。それで最初のプラクティスでは30分ぐらい路面が良くなるのを待っていて、走り出して悪さに気づいたが、セッティング変更をほとんど行えなかった。予選へも多くのことがわからないままクルマを作って行った。予選が終わってから今日の決勝スタートまでには1回しかプラクティスがなく、方向性だけでも見極めようとトライした。しかし、その中にも良くない部分があったので、テストでのセッティングに近い方に戻して、それで今回のコンディションに合わせるセッティングもレースに向けては施した」と琢磨はレース後に話した。

セカンドスティントを長くするストラテジーも裏目に

 「マシンがそんなにすごく良くなるっていうのは現実的に難しいとわかっていたが、少なくとも予選以上に好いパフォーマンスは発揮できるだろうと感じていた。暑くなったレースだが、序盤からハンドリングはそんなに悪くはなかった。バランスが取れていた。しかし、全体的にグリップはなかった」とも琢磨は語った。
 RLLのエンジニアリング・スタッフは、金曜日に後方集団に陥っていたマシンを、土曜日にはトップから半分に入るところぐらいまで改善したということだが、開幕から2戦続けて戦いが苦しくなっているためか、ストラテジーで打開しようという考えが強まっていたようで、2戦続けて作戦が悪い方に作用してしまった。今回はセカンド・スティントを長くしてイエローを期待する小さなギャンブルを序盤にしながら、最後のイエローではタイヤを新品に替える慎重派の作戦を採用し、どちらも裏目に出てしまった。

フェニックス=単独では曲がりきれないコース

 
Photo:INDYCAR (Chris Owens) クリックして拡大
  琢磨はフェニックスのレースを、「結局、単独で曲がり切れないマシンなんですよ」と分析していた。マシンと彼は表現したが、それはコースという言葉に置き換えた方が的確だろう。
「予選でも全開で曲がれないわけだから。1台で曲がり切れないってことは、2台が並んで曲がれるわけがない。ハイ・レーンを使ってエキサイティングなバトルが繰り広げられるオーバルっていうのは、基本的に曲がり切る余裕があるからハイ・レーンでも行けるわけですよね。ダウンフォースがあるアイオワ、テキサスだから2ワイド、3ワイドの走りが可能。でも、フェニックスは2ワイドになった瞬間に、外側の人は内側に誰もいなかったとしてもそのラインでは曲がり切れないのでバック・オフしなくちゃならない。つまりは内側のドライバーに勝てるワケがないんですよ。リスタートとか、相手が何台かにボックス・インされているケースでは外に行った方が空気をマシンに当てられるのでグリップするけれど、実際にそうなった時でも相手を抜き切るところまでは行かなかった」と琢磨は続けた。フェニックスは昔からオーバーテイク乱発のコースではない。そこまでを期待するのは最初から無理な話。今時のファンは欲張り過ぎだと思う。テキサスと同じようなバトルを期待してフェニックスに来たら、レースをおもしろくないと感じるのは当然だ。インディーカーは少しでも走行ラインを広げようと”タイヤ・ドラゴン”(Dragon=Drag-Onで、引き摺るって言葉にかけている)なる新兵器を投入したが、効果はなかったようだ。ドラッグ・レースには”トラック・バイト”などと呼ばれるグリップ増加ケミカルがあるが、そういうのは使えないんだろうか?
 当然インディーカーも検討はしたんだと思うが……。

「タイヤのグリップの低下でバトルが生まれるケースは少なく
むしろ、グリップ感のなさからもっとマシン同士が離れてしまった」

 
 琢磨の話をさらに聞こう。
「シングル・レーンでのレースになった後は、前のクルマに近づくとダウンフォースが減るので、結局近づけなくて、追いついて終わり、追いついて終わり……という展開になっちゃってましたね。タイヤのグリップが落ちてからバトルが生まれているケースは確かにあったけれど、少なかった。今のシリーズのコンペティション・レベルの高さを証明したカタチで、そんなにハンドリングが悪くなるクルマっていうのがなかった。それと、タイヤのグリップがなくなって行くと、みんな走りが苦しくなるんだけれど、苦しくて速度が落ちるとダウンフォースの量も減る。それで前のクルマに近づいても、グリップ感のなさから、タイヤがダメならダメになったなりに今度はもっとマシン同士が離れちゃうようになっていた。グリップの高いニュー・タイヤの間は前のマシンにもうちょっと近づけるんだけど、グリップが低いタイヤになるとクルマ同士が離れちゃうって現象が起きてて、結局誰も抜けなかった。抜けるドライバーっていうのは、ピット・ストップのタイミングが他と違って、みんながユーズドの時にフレッシュとなっている場合か、今日で言うとパジェノーとかロッシとかみたいに速いマシンが抜けていたかもしれない。いずれにしても僕らは今日はまったく歯が立たなかった」。

ロング・ビーチ、バーバーで序盤の勢力図は変わるか?

 
 琢磨を含めた多くのドライバーたちにとって、フェニックスでのレースは非常に難しい、そして辛抱強く走り続けるレースになっていたようだ。しかし、琢磨も認めているようにロッシやパジェノーは速かった。スピードがある上にタイヤを傷めることがなく、ロング・ランになってもラップ・タイムの落ちないセッティングで彼らはパスを重ねて行った。
 ということで、今シーズンの開幕からの2戦でのトレンドは、若手が速いということだ。事前テストでは琢磨が最速だったし、フェニックスでのPPはブルデイだったから、ベテラン=遅いとは言い切れないが……。ロング・ビーチでは誰が活躍するのか、その次の今シーズン初ロードコース=バーバーでの戦いは? どちらも楽しみだ。
 そしてもうひとつ。フェニックスは玄人好みとでも言うようなレースになっていたが、今後のショート・オーバル2戦=アイオワとゲイトウェイはもっとオーバーテイクの多いレースとなりそうなので、それらもお楽しみに。
以上

1 件のコメント:

  1. 天野さん、レポートおつかれさまです。録画していたフェニックスのレースを昨日観ました。ブルデーがPPで特集もやっていたみたいで私は、ブルデーに期待していましたが…いきなりのエンジンストールとピットでクルーを軽くはねるアクシデント…終わってしまいました。レイホールも今イチだったし、ディクソンも目立たなかったですね。その中ですいすいと走ってたロッシ…。あと、ウィッケンズはレースもすごいですが対応が紳士的で好感を持てますね。レース後のインタビューでのブルデーの哀愁さは半端なかった。ブルデーファンの私も、シュンとしちゃいました。ルーキーや若いレーサーが力をつけていますが、ブルデーや琢磨選手のベテランに頑張ってほしいです‼気になったのは、ペンスキーは、3台体制になってロジャーペンスキーは誰のストラデジストなんでしょう?以前、モントーヤやパワーのストラデジをしていた方すごく大好きでした。名前を忘れちゃいましたが、メガネかけてていつもニコニコしてインタビュー対応されてました。天野さん、長々とすみません。天野さんのレポート、楽しみにしてます。おつかれさまでした。ありがとうございました。

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