2014年7月24日木曜日

2014 INDYCAR レポート 第13戦・14戦トロント:レース1延期は正しい判断だったのか? レース1延期の顛末

Photo:INDYCAR (Chris Owens)
不可解な最初の赤旗。新しいアスファルト部分の水を心配したというが……

 トロントの雨は、本当にレース1がスタートできないほどのものだったのか?
 最初のスタートは、ウォーム・アップ2周の後に赤旗が出されてレースは始まらず。「水溜まりもあるし、雨が弱まるか止む期待を持って10~15分待つ」とインディカーは理由を説明したが、ポール・トレイシーがテレビで、「天気は今のまま3~4時間は変わらなさそうなのに」と誰もが感じていた疑問を呈していた。案の定、雨は弱まらず、スタートを待ったことでコース・コンディションは悪くなってしまっていた。


 このスタートを佐藤琢磨(AJ・フォイト・エンタープライゼス)は、「グリッドの各列の間にコーション・ライトが設置されていなかったため、その追加装備がその理由」と話していたが、そのような事情説明はインディーカーからは一切行なわれていない。他のチームに聞いてもこの件は確認できなかった。
 インディカーのレース・コントロールが最も懸念していたのは、コースの新しいアスファルト部分が含む水だった。ブラシのついた車両で水を排除していたが、それで取り除けるのは路面上の水だけ。インディカーが走ると、舗装の中にある水が吸い上げられ、路面に染み出して来て危険な状況を作り出すというのだ。それで彼らはグリーン・フラッグを振らせなかった。

2度目のスタートシングルファイルのローリング方式に変更
そして、そこから本格的な混乱が始まった

 2回目にスタートを切ろうとした時には、インディーカーはグリーン・フラッグを振る意思を持っていたという(=競技及びオペレーション担当のヘッドであるデリック・ウォーカーが後に証言)。しかし、それはスタンディング・スタートをやめ、シングル・ファイルでのローリング・スタートに切り替える決断をした後のことだ。そして非常に残念なことに、この時のウォーム・アップ・ラップ中にライアン・ブリスコー(チップ・ガナッシ・レーシング)がタイヤ・バリアに突っ込み、次のラップにペース・カーがスピンした。ドライバーのアリー・ルイエンダイクを責めることなかれ。あのシビックはスリック・タイヤ装着だったので。ここもインディーカーが深く反省し、改善を即座に行うべき点だろう。
 
 さらにさらに、ペースカーがターン3でいなくなっているのを知っているはずのウィル・パワー(チーム・ペンスキー)が、コントロール・ライン直前のターン11でクラッシュ。彼はいったい何を考えていたんだろうか? 何も考えていなかったのかも。そして、それが実は彼の常態では? もっとも、万が一グリーンが振られる可能性を考慮しての加速だった可能性もある。インディーカーのレース・コントロールは何をするかわからないからだ。どっちもどっちなんである。セイフティ・トラックがコースを逆走してる間にスタートしちゃった……なんて例も過去にあった。
 インディーカーは最初のスタートでグリーン出しておくべきだった。後の祭りだけれど。その後は状況が悪化してくばかり。たくさんのお客さんは雨の中でも辛抱強くスタートを待ってくれてたが、報われることはなかった。

赤旗中の原則を翻して給油とセッティング変更時間が10分だけ与えられたが
なぜかパワーだけはマシンを時間無制限で修復!まんまとグリッド最後尾に復帰


 ペースカーのスピンなんて赤面ものの事態に加え、パワーがクラッシュ。ここからレース・コントロールの迷走は始まった。「チャンピオン候補のパワーにはマシンを直させてあげたい。何しろ彼はシリーズの冠スポンサーになったヴェライゾンがスポンサーしてるマシンに乗っている。でも、赤旗中はマシンに触っちゃダメってルールがある。仕方ない、そこは捩じ曲げて全員がセッティング変更オッケーにしてしまえ!」……ということで全チームは自ピットにマシンを移動すること、10分間はセッティング変更や給油をすることが許可された。
 そんなことが二度あったワケだが、その間、ガレージに運ばれたパワーのマシンは修理がずーっと続けられていた。そこには時間制限ナシ。ついに彼らはまるで何事もなかったかのようにマシンをグリッド最後尾に移動させて来た。そのマシンはおそらく、完全なるウェット仕様のセッティングが施されていたに違いない。
 長く続く赤旗でウォーカーがテレビの放送席に呼ばれ、事情を説明。解説のタウンゼント・ベルが、「何がいちばんの問題なの?」と尋ねると、「バック・ストレッチの水。その除去に全力を投入中です」と答えたが、その直後にテレビ・カメラの抜いた映像はターン3から見えるバック・ストレッチで何も作業が行われていないところだった。
 夕方6時過ぎ、ようやく「今日はレースなし」との決断が下された。いやぁ、長い1日でした。イエロー・スタートで周回のカウントを開始し、路面をインディカーの集団走行によって乾かす手はあったと思う。そうしたらレースは予定通りに土曜日にひとつ終えることができていたかも。なんでそうしなかったんだろう? やっぱり、パワーのチームにマシンを修理するチャンスを与えたかったからなんだろうか??

デレック・ウォーカーのウェブインタビューは圧力で中止に
激しくなる一方のBBコンビの理不尽な裁定

 翌日への延期が宣言されて暫くしてから、中止に至った事情を説明すべくウォーカーがプレス・ルームにやって来た。囲み取材で彼は大勢の記者からされた質問にキッチリと答えた。それが終った後、アメリカの著名ライターがウェブサイト用にカメラを前にしてのインタビューを依頼すると、ウォーカーはオッケーしたが、インディカーのチーフ・マーケティング・オフィサーの邪魔が入った。「ちょっと待ってて」とライター氏に言ったマーケティング氏は、少し離れた場所でウォーカーに「取材を受けずに去れ」と指示。彼らは口論になったが、マーケティング・サイドが勝利。自らの職権の範疇であるとウォーカー氏を説得したらしく、取材に応えさせないことに成功した。
 競技及びオペレーション担当のボスであるウォーカーにはやるべき仕事が多い。その結果、彼はレース・コントロールの仕事に関してはボー・バーフィールドとブライアン・バーンハートのBBコンビに任せ切りになってしまっているようだ。そして、その結果として理不尽な判断が山積みにされて来た。彼らの裁定には安定感、一定性といったものがまるでない。そして、一部のチーム、あるいはドライバーに対するエコヒイキが存在する……というより、酷いレベルでそれが行われて来ている。ニュー・ハンプシャーで雨の中でレースをスタートさせ、パワーが両手の中指立てて怒りまくった……のが脅しとして大きな効果を発揮してるってコトなのか……。
 エンジン・マニュファクチャラー、シャシー・コンストラクター、チームのエンジニアやトップ・マネジメント、メカニック、そしてもちろんドライバーたち、優れた才能が集まり、インディーカーでは凄まじい競争が繰り広げられている。しかし、そのシリーズの運営はなぜなのか、それにマッチするレベルに全然届いて行かない。何とかならないものか……。

6 件のコメント:

  1. 天野様 過酷な週末の取材お疲れ様でした。
    確かにトップチームに対するヒイキ?と思える部分がありました。Race2でも最後の赤旗中断はインディの醍醐味でもある「ギャンブル」をしかけたジャスティンやニューガーデンらの作戦を台無しにして、スリック勢で前方にいたトニーやパワーに有利になりました。少し前はイエローチェッカーが普通だった気がするのですが。。。
    琢磨さんもポジションアップに成功しましたが、ギャンブル組にとっては最悪な赤旗でしたね・・・

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  2. いつもレポートありがとうございます。

    最近のインディーカーは、誰かが得をするような、何かしらの方向性があるような気がしてなりません。

    セーフティークルーの迅速の活躍にはいつも頭が下がりますが、レースコントロールの混乱ぶり、一貫性のなさには何を感じてよいのやら。。。

    開催コースに問題があるなら、改修させるか、やらなきゃいいのに、なんても思います。リスキーなコースはおもしろいんですけどね。

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  3. 赤旗連発でのレース1延期について。
    だれかさんがクルクルしなければ・・・ホントですよね。
    あと、ブリスコーっていつも何かタイミング悪い。
    あそこでターン5まっすぐはないでしょう。
    でも、救われてましたね、ペースカーのスピンに。
    あれには思わず笑ってしまった。
    スリックで奮闘してたアリーには悪いですけど。

    レース2の終盤について。
    たしかに、ジャスティン・ウィルソンたちの
    レイン・タイヤでのステイ・アウト作戦もおもしろかった。
    でもねぇ、今のインディーカーは
    「もう絶対にイエロー・チェッカーはやらないぞ」って
    方向性ですから。
    そこもレースのうちだったのに・・・・。
    スポーツとエンターテインメントの線引きが、
    ちょっとズレちゃって来てるんですね。
    それが時代の流れだと言う人もいます。

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  4. ほねっちさん
    アメリカの場合、シリーズ主催者よりも
    イヴェント・プロモーターの方がある意味で立場が上……
    ってところがあるんです。
    だからコースの改修をさせるって結構難しいんですよ。

    昔話になりますけど、ポコノは約20数年前に
    CARTの改修要請を蹴った。それでレースが来なくなった。
    結局、コー スをいじるのってお金かかるでしょ? 
    お金かけずにお金を儲ける。それがアメリカ式なので。
    ロードコースでグラヴェルや芝にしとくより舗装しちゃった方が
    絶対に安全なのが明らかなところとか、
    コース面よりオフした際のグラヴェル面が低くなってて
    スピードが落ちにくくなってるところと か、
    芝生だからフラットに見えるけと実はデコボコで
    高速で飛び出すと跳ねてアブナイ・・・などたくさんあります。
    アブナイ場所は慎重に走る。
    それ もアメリカン・レースでは求められる能力なんです。

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  5. 天野さん、何時も取材お疲れ様です。
    今年は本当に不可解ですね。私も米国出張のついででデトロイト
    を現地観戦したのですが、ターン3でのTVに映ってないパワーの
    抜き方は天野さんがご指摘されているように本当に酷かったですね。
    強引にイン刺して、アウト側が引かないと確実に弾き飛ばしていく
    1年目のルーキーのようなスタイル。昨年まではあんなことはしなか
    ったドライバーなのにスポンサーが冠になるとあんなことができてしまう
    のかと勘繰りたくはなってしまいます。昨年までは重大な違反には
    エントラントポイントを形だけ引いてましたが、今年はそれすらなくなり
    これからどう迷走していくのかとても不安になります。

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  6. MMKさん重大な違反はエントラント・ポイントから減点・・・という件ですが、そこがそもそも間違っていたと思います。エントラント・ポイントなんて、ほとんど意味がないので。チャンピオン候補だろうが誰であろうが、違反があったら公平に咎めなきゃいけません。剥奪するならドライヴァー・ポイントを。

    ラフなドライヴィングに関して、インディーカーは早急に対処をすべきでしょう。近頃はブツケるのがあたかもオッケーであるかのような捉え方がドライヴァーたちの間でも、ファンの間でもなされている気がします。ギリギリで戦った結果として軽くタッチする・・・ぐらいがスリリングなのであって、プッシュしてどけるのは言語道断。そのためにはインディーカーが「我々のレースとはどうあるべきか」を世間に示し、出場者にもファンにも理解をしてもらう必要があるでしょう。しかし、残念ながらシリーズ主催者にそういう気があるようには見えてません。示し、出場者にもファンにも理解をしてもらう必要があるでしょう。しかし、残念ながらシリーズ主催者にそういう気があるようには見えてません。

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