2021年5月16日日曜日

2021 INDYCARレポート R5 GMR GP:5レースで5に目のウィナー誕生 勝ったのはリナス・ヴィーケイ=今年3人目の初優勝

弱冠20歳のインディーカー・ウイナーが誕生! オランダ人としては、アリ・ルイエンダイク以来となる勝利だ Photo:INDYCAR(Chris Owens)クリックして拡大

インディーカー2年目の20歳、参戦19戦目の初優勝!

 快晴。気温22℃。路面39℃で始まった85周のレースは、レッド・タイヤでのパフォーマンスが圧倒的に優れていたリナス・ヴィーケイ(エド・カーペンター・レーシング)が勝利を飾った。デビュー2年目、キャリア19戦目にして、オランダ出身20歳のドライヴァーが初勝利。ゴール直前に小雨が降り出し、レイン・タイヤへスイッチする必要性が生まれる展開も考えられたが、走行に大きく影響するだけの雨量とはならず、ゴールは迎えられた。

Photo:INDYCAR(Chris Owens)クリックして拡大

Q2敗退でレッド1セット温存のアドバンテージ

 昨日、インディアナポリス・モーター・スピードウェイ(IMS)のロードコースにおける2回目のポール・ポジション獲得に意欲満々だったヴィーケイだったが、予選は失敗してQ3進出を逃し、結果は7位に終わった。しかし、今になって考えれば、Q3を戦わなかったことが彼の決勝レースにプラスに作用していた。Q3を走らなかったことで、彼は予選で使えるレッド・タイヤ2セットを、それぞれ1回ずつのアタックで使用しただけで決勝を迎えることができた。レッドはもう1セットがレース用に与られる。ヴィーケイとエド・カーペンター・レーシングは、フレッシュ1セット、ユーズド2セットのレッド合計3セットをフルに使って勝利を目指すへこととした。カー・ナンバー21を纏ったマシンはレッド・タイヤにマッチした仕上がりとなっており、レース中のファステスト・ラップも彼が記録。終盤の48周目にトップに立つと、インディカーは初年度だがレース経験はヴィーケイより遥かに豊富な元F1ドライヴァー、ロマイン・グロジャン(デイル・コイン・レーシング・ウィズRWR)を引き離しての堂々たる勝利を記録した。

勝負の明暗を分けたタイヤ戦略

レッドタイヤを1セット温存できたメリットを生かし、ヴィーケイはフレッシュブラックでスタートし、あとはレッドでつなぐタイヤ戦略をチョイス Photo:INDYCAR(Walt Kurn)クリックして拡大

 7番手からのスタートでタイヤ・ストラテジーをどうするか? 早目にポジションを上げるためにレッドを選ぶ? ブラック・タイヤにしつつ、何とか順位をキープする。考え方は色々ある。ライヴァル勢がどちらのタイヤを選んで来るかがわからないところが、またレースをおもしろくしている。トップ10グリッドからスタートするということは、グリーン・フラッグが振られた時からトップ・コンテンダーの真っ只中でで戦うということ。そのような上位スタートでは、レッドを履いたからといって簡単に順位をゲインできるものでもない。
 ヴィーケイ陣営はブラックでのスタートを選んだ。上位陣のスタート・タイヤは以下のとおりだった。
ポール・ポジション: ロマイン・グロジャン=フレッシュ・レッド
予選2位: ジョセフ・ニューガーデン=ユーズド・レッド
予選3位: ジャック・ハーヴィー=ユーズド・レッド
予選4位: アレックス・パロウ=フレッシュ・レッド
予選5位: スコット・マクロクリン=ユーズド・レッド
予選6位: コナー・デイリー=フレッシュ・レッド
予選7位: リナス・ヴィーケイ=フレッシュ・ブラック
予選8位: コルトン・ハータ=フレッシュ・ブラック
予選9位: エド・ジョーンズ=フレッシュ・レッド
予選10位: シモン・パジェノー=フレッシュ・レッド


ヴィーケイとは真逆のタイヤ戦略をチョイスしたパロウ。自分たものマシンの持てるポテンシャルをフルに発揮して3位に Photo:INDYCAR(Joe Skibinski) クリックして拡大

 パロウはセカンド・スティントからブラック3連投という、ヴィーケイとは真逆のストラテジーだった。プラクティスでの走りで、自分たちのマシン・セッティングはユーズド・レッドの性能を引き出せないという結論を出していたからだった。その戦い方でも彼らは3位フィニッシュ=今年2回目の表彰台。彼らの作戦に関しては、ガナッシ以外のチームすべてが研究する必要があるだろう。IMSロードコースでのレースは夏にもう1戦ある。

ブラックタイヤのパフォーマンスに泣いたグロジャン

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 グロジャンはサード・スティントでブラックを投入し、そこでトップを奪われた。新品レッドでのスタートは果たして正解だったのか? 全員を周回遅れに陥れない限り、フルコースコーションのあるインディーカーでは大量リードに大きな意味はない。作戦力では定評のあるデイル・コイン・レーシングだが、前方グリッドからのスタート経験は決して多くなく、今回はオーソドックスな戦い方が得意ではないことを露呈してしまった感もある。
 デイリーは1ラップ目のターン1でヒットされ、芝生に出たスタック。6番手スタートだったが、ほぼ戦わずしてチャンスを失った。


ニューガーデン、スタートのターン1で後退
ペンスキー勢、AA勢は今回存在感希薄……

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  今日は、チーム・ペンスキーとアンドレッティ・オートスポートという強豪2チームがレースのファクターになれていなかった。これは大きな驚きだった。ペンスキー勢の最上位フィニッシュはニューガーデンの4位。彼は予選2位でフロント・ロウ外側からスタートを切ったが、1ラップ目のターン1で後退。その後はとうとうトップ争いに一度も絡むことがなかった。チームメイト3人はもっと悲惨な戦いぶりだった。

ニューガーデンはオープニングラップの1コーナーでポジションを落とし、その後もトップ3の広報での走行に甘んじる Photo:INDYCAR(Chris Owens)クリックして拡大

 アンドレッティ勢はアレクサンダー・ロッシの7位が最上位。14番手スタートからの7位は悪くないが、ロッシやアンドレッティ・オートスポートに求められているのは優勝、あるいは優勝争いだ。それが今年の彼らにはほとんどできていない。コルトン・ハータは第2戦セイント・ピーターズバーグでポール・トゥ・ウィンを飾っているが……。大ヴェテランのライアン・ハンター-レイが今日のレースでは奮闘していた。セカンド・スティントを長くする作戦でトップを走るシーンもあった。しかし、19番手スタートで勝利まで行き着くためには何か非常に大きな幸運に味方してもらう必要があり、今日の彼はそれに恵まれなかった。結果は12位フィニッシュ。チームもドライバーもまったく納得の行かないリザルトだ。

開幕5レースで5人目のウィナー誕生
しかも3人がインディーカーシリーズ初勝利!

ラストスティントでもヴィーケイはレッドタイヤのアドバンテージを生かしてグロジャンを引き離す Photo:INDYCAR(Joe Skibinski) クリックして拡大

 最終的にトップ争いは、どちらが初勝利を飾るかという戦いになっていた。そして勝ったのは、インディカー2年目の20歳の方だった。敗れたのはF1グラン・プリでの経験も豊富な、しかし、インディカーは今年デビューしたばかりのグロジャンだった。エド・カーペンター・レーシングの作戦がヴィーケイのアドヴァンテージで、チームとして2016年アイオワ以来となる勝利を手に入れた。

プラクティスでのトラブルが尾を引き、予選16位となったディクソンだが、粘り強い走りでシングルフィニッシュを果たす Photo:INDYCAR(Forrest Melott)クリックして拡大

  それにしても、5レースで5人目のウィナーが誕生するとは!
今年もインディーカーの戦いは熾烈だ。5人のウィナーのうち3人がキャリア初優勝という点も新鮮だ。彼らの年齢は24歳(パロウ)、優勝時は21歳で、現在22歳(オーワード)、20歳(ヴィーケイ)と非常に若い。第2戦のウィナーも21歳のコルトン・ハータ(アンドレッティ・オートスポート)だった。唯一、第3戦のウィナーが40歳のスコット・ディクソンで、その彼がポイント・リーダー。今回は予選16位から9位でゴールしてみせた。

Photo:INDYCAR(Chris Owens)クリックして拡大

 振り返ると、昨シーズンはディクソンによる開幕3連勝で始まり、その後もシモン・パジェノー、ジョセフ・ニューガーデン、佐藤琢磨、ウィル・パワーとヴェテランたちが大半のレースで勝利を挙げていた。若手の優勝はロード・アメリカのレース2(シリーズ第4戦)でフェリックス・ローゼンクヴィストがキャリア初優勝を飾ったのと、第11戦でのハータによるキャリア3勝目だけだった。しかし、若手の台頭というトレンドは見え始めていた。

勝負のあやとなったジョンソンの走行

 GMRグランプリでの問題点として、他と比べて明確に遅いマシンが1台走り続けていたことが挙げられる。ヴィーケイがバック・ストレッチでパロウとジミー・ジョンソンの間に飛び込み、3ワイドにして2台をまとめてパスしたシーンがあった。いかにもヴィーケイらしい、思い切りの良い、大胆かつ豪快なパスだった。3台揃ってリタイア……という最悪の展開も考えられるリスキーなアタックでもあった。

41周目にピットレーンでパロウに先行するようにハンドサインを出すなど、不可解な行動もあったジョンソンPhoto:INDYCAR(Travis Hinkle)クリックして拡大

  こんなシーンが生まれたのは、パロウがターン1でジョンソンにほぼ追いついたため。ジョンソンがラインを譲っていれば良かったが、大量のマーブルが出ているオフ・ラインに出たくなかったのだろう、そのせいでパロウはスピードを上げられず、ヴィーケイがに一気に差を縮めることとなった。そして彼はパロウとジョンソンを一度に抜き去った。
 NASCARチャンピオンは若いチームメイトに道を譲るべきだった。もしその決断が下されていたら、あのラップでパロウがヴィーケイにパスされることはなかっただろう。パロウはアウト・ラップだったが、2周目に入れていればタイヤの温度も上昇し、さらにヴィーケイにとって抜きにくい存在となっていたと思われる。そのような展開になっていた場合、もしかしたらグロジャンは逃げ切ることができ、ヴィーケイは初優勝ができていなかったかもしれない。


加速する世代交代!台頭するヨーロピアンドライバー

ピットでのタイムロスなどで一時らぷダウンとなるも、レースリーダーのグロジャンとバトルを演じ、抜き返してリードラップに戻るなど、佐藤琢磨はコース上では奮闘 Photo:INDYCAR(Karl Zemlin)クリックして拡大

 今日の表彰台、気づけば全員ヨーロピアンだった。
 佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)は17番手スタートで16位フィニッシュ。1回目のピットストップでトラブルがあり、レースを通してトラフィックに悩まされてもいた。ブラックーレッドーレッドーレッドーレッドというタイヤ・ストラテジーはウィナーと同じ。フレッシュ・レッドを2セット持っていたが、そのメリットを活かし切れていなかった。対照的だったのがイエロー中の3周目1回目のピット・ストップを行った、予選16位(琢磨の一つ前)だったスコット・ディクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)。たった3周でレッドにタイヤをスイッチし、サード・スティントもレッドで走った彼は、最後にはブラックをチョイスしたが、9位でのフィニッシュに成功した。
 8月半ばに予定されている同じサーキットでの2レース目、チーム・ペンスキー、アンドレッティ・オートスポート、アロウ・マクラーレンSP、そしてレイホール・レターマン・ラニガン・レーシングがどれだけバウンス・バックした戦いを見せることができるか、注目したい。
以上

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