2021年5月26日水曜日

2021 INDYCARレポート 第105回インディアナポリス500 プレゼンテッド・バイ・ゲインブリッジ Day6 ラスト・チャンス・クオリイファイイング:ウィル・パワーが予選32位

ラストチャンス・クオリファイに臨むパワー Photo:INDYCAR (James Black) クリックして拡大

 パワー、予選初日にグリッド確保を逃す緊急事態

 インディーカー歴代2位の62回もポール・ポジションを獲得して来ているウィル・パワーだが、実はまだ”500”のPPは獲ることができていない。そんな彼が今年のインディーで予選落ちの危機に瀕した。こういう誰も予測のできない、ミステリアスなことが起こるのがインディー500だ。
 パワーの”500”での予選結果を見てみる。
 2021年 32位
 2020年 22位
 2019年 6位
 2018年 3位
 2017年 9位
 2016年 6位
 2015年 2位
 2014年 3位
 2013年 6位
 2012年 5位
 2011年 5位
 2010年 2位
 2009年 9位
 2008年 23位
 デビューの08年はKVレーシング・テクノロジーからの出場。今年が14回目の出場で、フロント・ロウ・グリッド獲得4回、09~19年まで11年連続で3列目までに食い込んでいて、そのうち9回はトップ6で2列目に入っていた。”さすが”の成績だ。しかし、パワーがチーム・ペンスキー内で最上位グリッドだったことは14回中の5回と意外にも少ない。この13年間でチームメイトのPP獲得は4回あった。データで見ると、インディアナポリス・モーター・スピードウェイの2.5マイル・オーヴァルでの予選、あるいは4ラップ連続走行というフォーマットがパワーは苦手気味ということになる。ここまでの成績を挙げていながら”苦手”と評するのはどうかとも思うが、マリオ・アンドレッティを抜いて歴代PPナンバー・ワンとなりそうなドライヴァーに対しては基準も厳しくなる。

Photo:INDYCAR(Doug Mathews)クリックして拡大

ペンスキーのインディー500パフォーマンスも低調

 チーム・ペンスキーはインディー500で最多の18勝を挙げて来ているので、予選も好成績と考えがち。ところが、シヴォレーのナンバー・ワン・チームとして戦って来ている2012年からのパフォーマンスに限るとそうでもない。彼らが”500”の予選でシヴォレー勢のトップだったケースは10年間で2回だけ。ECRが7回、チップ・ガナッシ・レーシングが1回、同じエンジン使用でペンスキーを上回っている。
 このところずっと3~5人とインディー500にマルチ・カー・エントリチーム・ペンスキーだが、ファスト9入は昨年から2年続けてゼロ。それどころか、2年連続で4人中3人が20位以下とおおいに苦戦して来ていて、その最たる例がパワーのラスト・ロウということだ。インディー500に初めて挑戦したルーキーのスコット・マクロクリンが今年のチーム内ベスト――17位と決して良くはない――で、チーム内で最も経験豊富なパワーが予選32位とは、230mphオーヴァーのアタックを行うマシン作りは、チーム・ペンスキーをもってしても把握し切れない部分、未知の領域が少なくないということだ。
 ECRのインディーでのパフォーマンスはとても良い。まだ優勝はなく、ベスト・リザルトは2019年の2位(カーペンター)。PPはカーペンターが3回獲得している。

シヴォレー優位との見方もあった予選序盤だったが……

 火曜日にプラクティスが始まってすぐ、「レース・トリムでチーム・ペンスキーが速い!」という声が上がった。デ・ジャヴ――去年も聞いた話だが、現実は予選でも決勝でもホンダ勢が明確に優勢だった。
 「シヴォレーの方がパワフル」という話も火曜日から聞かれた。レース・ブーストでの話で、これはホンダを使うドライヴァーからも聞かれた。コーナリングで引き離される、と感じのことのようだが、まだ多くのエントラントのシャシー・セッティングが進歩を遂げる前で、準備のレヴェルが高いペンスキー勢が先行している、ということだったのではないか。
 エクストラ・ブーストの与えられる予選では今年もホンダ勢が優勢で、ファスト9の7人がホンダHI21TT V-6ツイン・ターボ・エンジンを搭載。PPと予選2位を獲得。ただし、シヴォレー軍団もエド・カーペンター・レーシングが孤軍奮闘。シヴォレーは去年より1人多い2人がファスト9を戦い、3、4番グリッドを確保した。


ペンスキー最上位はルーキーのマクロクリンの17位という現実
シヴォレー勢トップのヴィーケイとの差も大きく……

 チーム・ペンスキーの4人は、ルーキーのスコット・マクロクリンによる17位が最上位と何か不可解な状況。去年は10番手台に踏ん張っていたジョセフ・ニューガーデンが今年は21位。シモン・パジェノーは2年連続の9列目グリッドとなる26位。パワーは予選1日目に今年のレースへの出場権を手に入れられなかった。
 今年もインディ500でのシヴォレーの主役はECRだった。条件を同じにするために予選1日目の数字で比較すると、ヴィーケイとペンスキー勢のトップだったマクロクリンのスピード差は1.412mphもあった。来年にこの差は縮まっているだろうか?

パワー、ラスト・チャンス・クオリファイイングで根性の走り

Photo:INDYCAR(Walt Kurn)クリックして拡大

 パワーは予選2日目、午前中のプラクティスを走らなった。セッティングを見直し、整備を万全に行ない、最大のパフォーマンスを発揮する1回目のアタックに勝負を掛けたのだった。
 予選2日目も暑かった。気温は前日の夕方より低かったが、路面温度は49.8℃と高くなっていた。

 ”ラスト・チャンス・クォリファイング”を戦い、それを何とかクリアし、35台がエントリーしたうちの32位でラスト・ロウにグリッドを確保したのだった。
 パワーの1周目は230.053mph。マシンを進歩させて来たな!
と思われた。ところが、2周目は229.106mphへ急降下。228mph台に3周目に入ってしまい、4周目は壁にヒットしたこともあって227.535mphにまでダウン。228.876mphはカラムに次ぐ2番目=31番グリッド(暫定)となった。シモーナ・デ・シルベストロ(パレッタ・オートスポート)、チャーリー・キンボール(AJ・フォイト・エンタープライゼス)に上回れたら万事休すところだったが、彼らのスピードは伸びず。キンボールとエナーソンの予選落ちが決まり、パワーは14回目のインディー500出場を果たせることとなった。


「ターン2で壁にヒットしたときかなりの衝撃を感じたが
危ないことは承知でそこから全開を保った」


Photo:INDYCAR(Joe Skibinski)クリックして拡大

  「昨日からずっと緊張し続けだった。昨晩はあまり眠れなかった。予選でのマシンは、どのコーナーでも大オーヴァーステアだった。最終ラップのターン2では何とかマシンを抑え込んだつもりだったが、壁にヒット。そこからは危ないのを承知でアクセルを全開に保った。リヤ・ホイールのトウが狂い過ぎていないことを祈ってターン3からふたつのコーナーを回った。幸いなことにマシンは持ってくれた。ハンドリングも大きく悪くなってはいなかった。ターン2での接触は全然軽いものなどではなかった。かなりの衝撃を感じた。それでもアクセルを踏み続けるしかなかった。チームがこのレースにかけている情熱はものすごいものがあるのを知っているから。アクセルを緩めたら決勝に出場することができなくなるとわかっていた。走行ラインがあと4分の1インチ外側に流れていたら、マシンへのダメージは致命的なものになり、ゴールまで走り続けることはできなかったと思う。あぁ、これでインディ500を走れることになった。本当に嬉しい。昨日30番手に入れないと決まった後には、マシンを徹底的にチェックするのはもちろん、ヴィデオで走りをチェックするなど、やれることは全部やった。このコースはありとあらゆる試練を投げかけて来る。インディ500に出場できる。それがここまで驚くような感激を自分に与えることになるとは考えていなかった。ポール・ポジション争いよりも、ずっとプレッシャーは大きかった」とパワーは安堵の表情を浮かべていた。

パワー不振の原因はどこに生じていたのか?

 パワーとチーム・ペンスキーは目標を達成した。インディー500に出場するという、予選2日目の彼らに課された課題はクリアされた。ただ、予選1日目に30番手以下だった5台の中においても、パワーはトップになれなかった。壁にぶつからなかったとしても、年に一度しかインディカー・レースに出場しないドレイヤー&レインボールド・レーシングのカラムを上回れていたかは微妙だった。この原因究明はなされるだろうか?

 パワーの今年の予選を振り返る。
 予選1日目。くじ引きで引いた順番は18番目と遅く、気温、路面温度が上がり始めた時点でのアタック。計測1周目が229.541mphとこの時点までで2番目に遅いL1だった。ファスト・フライデイに29番手だったパワーは自分がファスト9を戦う可能性が低いことを知っていただろうが、トップ争いでは232mph台がマストだというのに、そこからマイナス3mphは、チーム体制やドライヴァーのキャリア、実力を考えると信じられないほどに遅い。先に走ったニューガーデンのL1は230.420mph、スコット・マクロクリンのL1は231.154mphで、28番目に走ったパジェノーのL1は230.405mphだった。パワーが最も温度の高いコンディションでの走行となっていたのは事実だが、2ラップ目が229.136mphにドロップ。3ラップ目は228mph台にディップし、4ラップ目は少しスピードを取り戻したものの、18人走った中での18番手というショッキングな結果となり、この後どんどん順位が下がって行った。
 アタック1回目を終えたパワーは、「マクロクリンとまったく同じセットアップだった。もうできることはない」と自分の結果が信じられない様子だった。ルーキー・チームメイトより1.5mphも遅かったのだ。暑さだけが原因ではない。
 午後2時半過ぎ、パワーは30番手までの”決勝進出組”からバンプ・アウトされ、ファースト・ラウンドが終わった。すぐさまニューガーデンが2回目のアタックを敢行。しかし、230.071mphで自己の記録を更新できなかった。
 このすぐ後、ヴィーケイが12番手から5番手に食い込む231.483mphを叩き出し、続いてマルコ・アンドレッティ(アンドレッティ・ハータ・ホウパート・ウィズ・マルコ&カーブ・アガジェニアン)も24番手へと4ポジションのゲインに成功した。路面温度はファースト・ラウンドを終えてから高くなって行く傾向にあったが、湿度が下がって空気は薄くなり、スピードが出せるコンディションになりつつある……との期待感が逆転を目指す者たちの間に広がった。

暑くなればなるほどに苦しくなる状況に陥る

Photo:INDYCAR(Joe Skibinski)クリックして拡大

 気温、路面温度は4時過ぎまで上がり続け、そこから下降し始めた。5時過ぎにコース・インしたエド・ジョーンズ(デイル・コイン・レーシング・ウィズ・ヴァッサー・サリヴァン)が231.044mphをマークして順位アップに成功した。

 パワーがアテンプト#2に出て行ったのは午後5時半過ぎ。1回目の走行時は気温が28.5℃、路面温度が39.1℃。2回目はそれぞれ30.6℃、45.3℃と高くなっていた。そのためか、1ラップ目に229.392mphしか出せず、チェッカーを受けるまで走り切ったが、またも4ラップ目は228mphにディップ。アヴェレージは229.228mphで、この時点で30番手にいたダルトン・ケレット(AJ・フォイト・エンタープライゼス)より遅かった!


 暑くなればなるほど走りが苦しくなる状況にパワー陣営は陥っていた。予選2日目の”ラスト・ロウ・シュートアウト”でもチーム・ペンスキーはスピード・アップのためのヒント、マシンやセッティングの問題点を見つけることはできず、ラスト・チャンス・クォリファイングでトップになれなかった。その必要はなかった、という人もいる。確かにそれはそうなのだが、本当に彼らが目指していたのは、決勝進出だけだったかは疑問だ。200ラップ、500マイルのレースでは31番手スタートと33位スタートに大差はないのだから、出場権確保が最優先という考え方となるのはわからないでもないが、その目標をクリアするためにはた一体どれぐらい速く走る必要があると考えたのだろうか。
 4人いたライヴァルのうち、シモーナ・デ・シルベストロはチーム・ペンスキーが技術サポートをしている身内なので、どれぐらいのスピードが出せるのかはわかる。あとは残る3人がどこまでのスピードを出して来るか。ルーキーのRC・エナーソン(トップ・ガン・レーシング)は予選1日目に227mph台しか出せておらず、予選2日目にミラクルを起こさない限りDNQの最有力候補。4人が3個の椅子を巡る戦いを繰り広げた。


去年のポールシッターが25位にとどまった今年の予選
新エアロルールのどこかに落とし穴があるのか?

Photo:INDYCAR(Chris Owens)クリックして拡大

 第105回インディー500の予選では、パワーとマルコ・アンドレッティの苦戦が話題となり、10回の出場経験を持つキンボールが予選落ちを喫した。どれも原因がドライヴァーとは考えにくいケースだった。昨年のポール・シッターが25位にしかなれなかったのだ。ダウンフォースを増やした新エアロ・ルールでマシンのどこかにドラッグが生まれてしまっているということなのだろうか?
 ターン2のウォールにヒットしてもアクセルを一切緩めなかったパワーの走りは衝撃的だった。リヤ・サスペンションが壊れていたら、ターン3かターン4で大クラッシュとなっていたかもしれないのに、パワーは全開を保ってゴールを目指した。バック・ストレッチ走行中も躊躇することはなかったということだろう。それはパワーにしかできない走りだった。同じことができるドライヴァーの名前は浮かばない。”絶対に予選を通って見せる”というパワーの強い意思と、レースにかける情熱が伝わって来た。
 二度目のシリーズ・タイトルとインディー500での2勝目を強く欲しているパワーにとって、今年のインディー予選でのパフォーマンスの低さは想定外だった。最後列からのスタートという大きなハンディを跳ね除け、優勝争いまで這い上がって行くことは彼に可能だろうか?


最後列からスタートするパワーの決勝での走りに注目

 予選後のプラクティスでのパワーは、チームメイトたちが15、26、28番手に沈んだ中、レース・ブーストのマシンで11番手のスピードを記録していたが……。条件の厳しさが彼の闘争心に火を点けたか?
 104回の歴史で最後列から勝った例はまだなく、最も”奥”からの優勝は第1回の1911年と1936年の28番グリッドから。パワーは来週の日曜日、この記録の更新を目指してスタートを切る。
以上


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