2018年5月25日金曜日

2018 INDYCARレポート 第102回インディアナポリス500 5月24日:ジェイムズ・ヒンチクリフのインディー500出場はない??

予選落ちが決まった直後に取材を行けるヒンチクリフ Photo:INDYCAR (Joe Skibinski) クリックして拡大
ヒンチクリフ、ツイッターで白旗宣言
 

 ジェイムズ・ヒンチクリフ(シュミット・ピーターソン・モータースポーツ)がツイートした。「今年のインディー500に出場する方法を模索するのはもう終わりにした」(編集部注:現地時間23日のツイート)。
 2011年以来となるバンプ復活でインディー500の予選はおおいに沸いた。思わぬ人がバンプされたからだ。”ヒンチタウン市長”の予選落ちを予想していた人はいなかった。しかし、何が起こっても不思議じゃないのがインディー。ボビー・レイホールが予選を通らなかったことはあったし、1995年にはチーム・ペンスキーが2台揃って予選落ちした(1年前はメルセデス・ベンツ・エンジンで圧勝したのに)。



最初のアタックの直前に予選が中断。ここからヒンチクリフに不運が連鎖する予想外の展開に Photo:INDYCAR (Chris Jones) クリックして拡大
雨による予選中断に大きく翻弄されたヒンチクリフ

 ヒンチはインディーカーで通算5勝も挙げて来ている。2016年インディー500ではポール・ポジションを獲得した。そんなドライバーが決勝進出に失敗したのは、幾つもの不運が重なってのことだった。まず、彼のアタックの直前に雨が降った。アタック目前で予選中断。2時間以上も待たされた後、コース・コンディションのチェックもできないままアタック。グリップの落ちた路面、変化した気温、路面温度、湿度などの条件が重なって、彼の4ラップ連続周回は214mph台しか出なかった。
 雨の中断はもう一度あって、そのトータルは3時間以上にもなったため、全員に一度ずつのチャンスが与えられた後、バンプアウト合戦に残された時間は約50分という短さに。しかも、ポールポジション争いを行うファスト9に入れるか否かを上位陣も同じ時間帯に争うルールによって、バンプアウト合戦組がアタックに再挑戦できる回数は大きく制限されることになった。

逆転を狙ったアタックのウォームアップ中にマシンに不具合!

スターティング・グリッドをゲットするためのアタックを待つヒンチクリフ。時間も少なくなり、周囲には緊迫感が漂う Photo:INDYCAR (Chris Jones) クリックして拡大
予選終了は午後5時50分。ヒンチがコナー・デイリー(デイル・コイン・レーシング・ウィズ・トーマス・バーンズ・レーシング)によってバンプ・アウトされたのは5時30分過ぎ。逆転のチャンスはすぐに巡って来たが、そのウォーム・アップ・ランでマシンからの異常な振動を感じてヒンチはピットに戻った。その後にアタックしたのはトップ9入りを狙ったアレクサンダー・ロッシ(アンドレッティ・オートスポート)=惜しくも失敗して10位。その次が6回のインディー500出場経験を持つ女性ドライバーのピッパ・マン。この日3回目のアタックでも彼女は十分なスピードを出せず、予選落ち。そして、彼女がアタック1周目を走っている最中に予選終了を告げる銃声が轟き、ヒンチは逆転を目指したアタックをフルに行うことがとうとうできなかった。無念!

どんでん返しの可能性はまだ残ってはいるが……

 予選後すぐに「ヒンチは予選を通った誰かのマシンを買って決勝に出場するはずだ」との見方がされた。「ターン1の内側に今年建った巨大ホスピタリーは彼のスポンサー(アロウ・エレクトロニクス)のもの。大勢のお客さんを呼ぶことが決まっているし、絶対にそうなる」と明言するヴェテラン記者もいたが、インディー500のルールで許されているマシン買い上げをヒンチとチームは結局行わない(行えなかっただけ?)ようだ。行なえなかっただけ、と表現できなくもないが……。そして、まだ明日のカーブ・デイのプラクティス目前までは大どんでん返しの可能性は僅かに残っているかも。
 シュミット・ピーターソン・モータースポーツのエントリーはレギュラーが2台で、他の2台は他プロジェクトとのジョイント。だから、「ヒンチのために降りてもらう」とは言いにくい。それでもAFSレーシングと走らせる7号車=ジェイ・ハワードに降りてもらう説、マイヤー・シャンク・レーシングとの連合チーム=ジャック・ハーヴィーにライドを譲ってもらう説があり、外にマシンを求める先としてデイル・コイン・レーシング(ザカリー・クラマン・デ・メロ)、コイン系チームのもう1台=デイリーのマシンから権利を買い請ける説があり、スクーデリア・コルサ・ウィズ・レイホール・レターマン・ラニガン・レーシングのオリオール・セルヴィア号も出場権を譲ってもらう候補に上がった。しかし、話がまとまることはなかった。

予選落ちドライバーが出場権を買うインディー500の伝統
過去には悲喜こもごものドラマが


インディー500のスターティンググリッドを2度譲ったドライバー、ブルーノ・ジュンケイラ Photo:INDYCAR
 「予選を通過できなかった者がお金で出場権を買うとはけしからん」、「お金があったらマシンを買えるというなら、予選なんて要らないじゃないか」という声はファンだけでなく、レース関係者の間にも多い。しかし、「これも伝統の一部」と肯定する声も案外強くある。あなたはどちらでしょう?
 レーシング・チームを多くのクルー(=従業員)を抱える企業だと考えた場合、特にインディーカー・シリーズにフル出場している今回のシュミット・ピーターソン・モータースポーツのようなチームのケースだと、多額の出資をしてくれているスポンサーに対し、インディー500に出場できないのでは面目が立たない。スポンサーに引き上げられてしまっては会社の存続に関わって来るのだから、”500”出場のためにできることは何でもトライするという姿勢を軽々に批判はできない。

晴れ晴れとした表情でクオリファイヤーのフォトシューティングに応じていたジュンケイラだったが…… Photo:INDYCAR クリックして拡大
 2011年を思い出す。アンドレッティ・オートスポートが予選落ちしたライアン・ハンター-レイのためにAJ・フォイト・エンタープライゼスからブルーノ・ジュンケイラの出場権を買い上げて決勝に出場したのは、その年からチームのスポンサーとなっていたDHLに長期に渡るサポートを続けてもらいたいとチームオーナーのマイケル・アンドレッティが考えたからで、その判断は大正解! 彼らは翌2012年に彼らはチャンピオンに輝き、インディー予選落ちの3年後にはインディー500で勝ってみせた。その結果、DHLはハンター-レイとアンドレッティ・オートスポートを2020年までサポートし続ける契約を結んだ。こんなことも起こり得るワケです。

ジュンケイラはその2年前、コンクェスト・レーシングで出場した2009年にもタグリアーニに出場権を譲っている。過去にはインディー500ポール・ポジションも獲得しているドライバーにはいささか酷ではある Photo:INDYCAR (Bret Kelley) クリックして拡大
  あの晩遅く、”自分のマシンが売られてしまったこと”を知って間もない”ジャンキー”に偶然レストランで会った。まだそれを知らなかった私は「おめでとう」と告げたが、彼の目は虚ろだった。そして私はホテルに帰ってアンドレッティとフォイトのディールを知った。これって今年のヒンチより悲劇だったもするけど……どうだろう?
 今年配られたインディー500のオフィシャル・ドライバー・レコードを見ると、ジャンキーは2011年の予選に出場していなかったのようになっている。このデータがカバーしているのはスタート・ポジション、フィニッシュ・ポジション、フィニッシュしたか、しなかった場合のリタイア理由、そして周回数。なのでジャンキーの記録は2010年までの出場6回で終わっていて、ハンター-レイはスタート33位/フィニッシュ23位と何事もなかったかのように表記されている。……非情だなぁ。
以上

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