2019年8月26日月曜日

2019 INDYCAR 佐藤琢磨コメント R15 ボマリート・オートモーティブ・グループ500:佐藤琢磨、ゲイトウェイの優勝を語る

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ゲイトウェイで成功しようとチームは必死でサポートしてくれた
それに対して自分は感謝しかないです

――ポコノでアクシデントがあり、その引き金を引いたかのような責めを一部の人々から受けていました。心の重い数日間を過ごしてゲイトウェイに来たと察します。「うちのドライバーは相手側に寄って行っていない。データもそれを示している」と行ったステイトメントをチームが出してもいました。どんな心境で今週末を迎えましたか?

佐藤琢磨:レース直後には、十分な映像などの情報が十分に揃っていなかったので、自分がアクシデントをスタートさせたように考えた人がいたのも仕方がなかったと思います。それに対してチームは、僕のオンボード映像も、ステアリング操作のデータも持っていますから、それを持って報道されている、あるいは、人々が騒いでいることは真実ではない、ということをステイトメントとして出しましたね。あるアメリカのジャーナリストが、”チームがあのようなステイトメントを出したのを見たことがない”と言っていました。それだけチームからのサポートを自分は受けているっていうのは本当にすごいことにだよねって話してくれて、僕も本当にその通りだなって思いました。ステイトメントを出すのだって僕が頼んだわけじゃないんですよ。チームから自主的にやろうってなってくれた。特に、インディカーがプロベーション(執行猶予付き監察処分)を含めたペナルティを考えていたので、チームとしては情報が足りない中での判断するのは不当だと考えていたので、そういう状況でのアピールだったと思うんですよね。僕自身もやれることはやって、戦うところは戦わないといけない。それ以上に、言論の自由もあるし、人々が色々な意見を持つのは仕方のないこと。でも、間違ったことが報道されて、それによって、何て言うのかなぁ……結構嫌な思いもしました。しかし、レースというものは進んで行きますし、自分たちはこのスポーツが大好きだし、その中で気持ちを入れ替えて今週末頑張ろうってチームはなっていました。アクシデントなんて起きない方がいい。それに越したことはないんだけど、ある意味で、自分たちのチームにとっては、すごく大きな結束力を生んだきっかけにもなったと思うので、誰もがみんな、今週のゲイトウェイでは成功をしようと、チームは本当に必死でサポートをしてくれました。それに対して自分は感謝しかないです。

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オープニングラップを5位で終えるという気持ちで臨みましたが
思っていたのとは全然違う展開になりました


――予選が5位という素晴らしい成績で、周りにまたチャンピオンシップ・コンテンダーがたくさんいる事態となりました。”今日は事故を起こしたくない”というか、ちょっと嫌なプレッシャーもあったことと思いますが?

佐藤琢磨:そうでしたね。必要以上にアグレッシブに行く必要はもちろんないし、とにかくスムーズにターン1を抜けたいな……っていうのは最初の目標だったし、希望でしたね。だから5位で落ち着いてスタートして、5位でオープニングラップを終えて帰って来るっていうのが、まずは大きな目標でした。

――そうしたら、ジェイムズ・ヒンチクリフがインに飛び込んで来て、ぶつかって行った。

佐藤琢磨:すごい止まり切れずに、ね。ヒンチクリフとは今日、レース前に話したりしていて、まぁ彼の方も過去数戦で不運が重なってましたよね。ある意味、アクシデントの被害を受けちゃった側でした。”でも、それもレースだからしょうがないよ”って彼は笑い飛ばしてたけど、そのヒンチが入って来たんで、”おおっ、来たな!”って感じだったけど、僕としてはあの状況、仕方なかったんですよ。ヒンチが入って来て、周りにも囲まれていた。スコット・ディクソンがすごいスタートを切っていたんで3ワイド、4ワイドになってて、”いや、とにかくここを切り抜けよう”と。
 だけど、ぶつかられた影響でスピンしそうになったんですよね、2回ね。フルカウンターを2回当てて、なんとか立て直した。持ちこたえました。でも、それでものすごく抜かれちゃって13位とかになった。参ったなってなりましたね。レース前に思い描いていたのは全然違う展開になってしまいましたね。

 
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これは本当にいかなきゃならないな、と
 

――トップグループで戦うつもりが、中団のタービュランスの中に飲み込まれることになって、考え方や作戦を完全に切り替えたんでしょうか?

佐藤琢磨:そうですね。まずはタイヤの持ちを見たかった。あとは、リーダーがピットに入るラップも見たかった。奇しくも僕はチームメイトのグレアム・レイホールとのランデヴー走行となっちゃったので、僕らのチームとしては作戦をちょっと変えたいなって考えもありました。どこまで引っ張って、どういう風に戦うのか……と。だけど、1回目の前がグシャグシャっとなったのをチャンスだと思って2台をいっぺんに抜こうとしたんだけど、まぁ、今日は色んなクルマがオフ・ラインに行った瞬間に、レース・リーダーでさえ足をすくわれるような状態でしたよね。だから僕も、ちょっとグレーに乗っただけで逆にまた彼らに抜かれてしまって、”これは本当に行かないとならないな”って感じました。自分たちのクルマのバランスは、スタート直後のスティントであまり良くなかった。でも、セカンドスティントは様子を見たかったので、そのままセッティングを変えずに行って、その後、ラップが重ねられたことで路面にラバーが乗ってコンディションが良くなって行きましたから、サード・スティント、その更に次のスティントに向けてはセッティングをアジャストしました。

 
サード・スティントとその次のスティントで
いちばん速いペースで誰よりも長く走れた


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――最後尾に落ちたし、1ラップ・ダウンにもなりました。

佐藤琢磨:はい。でも、その時に”とにかくラップ・バックする”っていうことを目標にして、あとは、”もうここまで来たら、燃費を思いっきりストレッチして、1回でも少ないピット・ストップで行くしかない”とも考えました。今日のレースで一番クリティカルになったのは、サード・スティント、その次のスティント。誰よりも速いペースで、誰よりも長く走れたことでしたね。あそこで一番速いペースで、誰よりも一番長く走れたので一気に前に出ることができた。だから、イエローが出た時にほぼ全員を周回遅れにしていた。実は、あの周に僕はピットに入るつもりだった。そういうことが今日は2回あった。入る周だっていうのにイエローが出ちゃうから、もう燃料がギリギリで、コレクタータンクのものまで使ってました。そういう意味では、ピットまで辿り着けたののはラッキーでした。そして、ピットからコースに戻った時、まだ自分がリーダーだったっていうのは信じられなかったですね。

 
――ピットしたのでリード・ラップの後ろに入るのかと思ったんですね?

佐藤琢磨:そうでした。表示が壊れているのかと思った。ステアリングが「P1」のままで、コースから電光掲示板をチェックしても自分がトップだった。”絶対におかしい”ってピットに順位を確認しました。”そんなはずはない”って。そうしたら、”全員を周回遅れにしていたので、ピット入ってもトップ”と言われました。
 

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トップでコースに復帰して、行ける!と思いましたが
タイヤのキャラクターが全然変わっちゃっちゃってました
 


――もうレースも終盤、あのタイミングでトップに出た時には、”勝てる!”って思ったんじゃないですか?

佐藤琢磨:行けると思った。もうゴールまでピット・ストップは要らないし、サード・スティントの最後の方が良かったから、タイヤが持つ自信もあったんですよ。なので、リスタートはいつもTK(トニー・カナーン)はうまいから、そこはちょっと牽制していたんだけど、リスタートから一気に差を広げて、気持ちのいいペースで走れました。……だけど、全然タイヤのキャラクターが変わっちゃってた!
 あの前のスティントって、僕っていつも誰かの後ろについていて、言ってしまえば結構アンダーステアに苦しみながら走ってたんですよ。でも、それによってフロント・タイヤが傷んで行っていて、逆にその分、リヤ・タイヤが助けられていたんでしょうね。ところが、先頭に出て前に誰もいない状態になって、本来ならダウンフォースをグッと受けるのでタイヤが滑らなくて良いはずなんだけど、あまりにもバランスが良くなって、リヤ・タイヤを酷使することになっちゃったみたいなんです。20周ぐらい走った時、”これはまずいかも”と思いました。持っているツールは全部プロテクション方向に振りました。それでもタイヤの磨耗がどんどん進んでっちゃって、一気にラップタイムが1秒ぐらい遅くなった。そこへ、前に周回遅れが現れた。


――ヒンチクリフでした。

佐藤琢磨:はい。彼の後ろを走り出すと、もうタイヤのバイブレーションがすごかったし、ヒンチの後ろ走りながらも、後ろの順位の人たちとのギャップがどれぐらいあるのかも知りたくて、彼らとの間隔をコントロールし始めたんですけど、でも、タイヤも厳しい状況になって来てたから、ヒンチを抜かないと、もうすでにリヤのグリップがなくなっている状態で、常に前に1台いる状況でダウンフォースが少ないとズルッズルになっちゃうから、ちょっと気合で彼を抜きました。、その後は後ろを見ながら、自分なりにタイヤを持たせる走りをしたんですけど、まさかエド・カーペンターがあそこまでハイ・ペースで来るとは思いもよらなかったですね。

すべてがうまく行きました
チームがこれだけサポートしてくれて、絶対にクルマを
ゴールまで持ち帰ろうと思っていたのに優勝というおまけがつくとは

 
――ファステスト・ラップが180mph台のレースでしたが、終盤の琢磨選手のラップは170mph平均を切ることもありました。

佐藤琢磨:ありましたね。本当にギリギリでした。

 
――カナーンがカーペンターを封じ込めていました。


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佐藤琢磨:そうでした。だから、何かすべてがうまく行きましたよね。そういう意味では幸運だった面もありました。でも、なんだろう、さっき話したけど、チームがこれだけサポートをしてくれて、そんなクルーのために今日は絶対にクルマをゴールまで持ち帰ろうと思っていました。そこに優勝というおまけがつくとは、本当に信じられない。
 
――ピット・ストップでチームの集中力が切れそうになったかのように見えた時もありましたが?

佐藤琢磨:でも、ピット・ストップは決して速くはなかったかもしれないけど、遅くもなかったと思いますよ。確かに、1回、ちょっと遅いことがあったかな?
 でも、ミスではなかったし、集中力は大丈夫でした。

 
僕らはロードコースにチームとしては自信を持っています
残る2レースも頑張っていくだけです


――それにしても、ポコノですったもんだがあった……というか、申し訳ない表現だけれど、ケチがついたというか、因縁をつけられたと言うか……その次の週に、それも去年優勝したポートランドの前の週に優勝。ミラクル・シナリオですよね? 


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佐藤琢磨:本当にそうですよね。ありがとうございます! 1シーズンに2勝は初めてだし、ショートオーバルでの優勝も初めて。
 
――これでインディカーのコースバリエーション完全制覇。

佐藤琢磨:そう。さっきGAORAのインタビューでも答えたけれど、(武藤)英樹の2位が日本人最上位だったから、それを目標にやって来て、今日ついに勝つことができ、本当に嬉しいですね。

――3勝目さえ見えて来た!

佐藤琢磨:そうですね。でも、欲張ってもアレだけど、次は相性のいいポートランドですからね。ラグナ・セカはどうなるかまだわからないけど、少なくとも今年、僕らはロードコース、バーバーのように良かったところがあるし、レイホール・レターマン・ラニガン・レーシングとしては自信を持っています。頑張っていくだけです。

――今回ついに優勝を遂げましたけど、ショート・オーバルって実は一番難しいかもしれないですね?

佐藤琢磨:まぁ、それはスーパースピードウェイでもどこでも、勝つのは本当に難しい。実力がなければ当然勝てない。スピードがなければ勝てない。でも、運もなきゃ勝てない。今日も一度ラップ・ダウンになってたじゃないですか。そこから優勝争いに戻れるって言うのがオーバルの難しさであり、楽しさであり、醍醐味だと思います。僕らは”一度でもいいから、トラック上で一番速い”ことになりたかった。そうして、最後の一つ前のスティントでそうなれたことで、勝ちに行ける切符を手に入れた。そう言う意味では、それを作ってくれたチームに感謝したいです。


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――テキサスから苦しい時期が続いていましたが、これでトンネルを抜けた感じでしょうか?

佐藤琢磨:これで本当に、チームに対しても、ずっと応援してくれていたみんなに対しても、いい形でお礼ができたんじゃないかと思ってます。

 
――いや、今日の結果で本当にスッキリしました。

佐藤琢磨:はい。ありがとうございます! 来週また頑張ろう!!
以上

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