2025年8月25日月曜日

2025 INDYCAR レポート R16 スナップ₋オン・ミルウォーキー・マイル 250 Race Day 決勝:小雨のいたずらでアレックス・パロウは9勝目を逃し、 クリスチャン・ラスムッセンが超アグレッシヴな走りでキャリア初勝利

 

パロウ、圧倒的なパフォーマンスを発揮し、大量リードを築く


 昨年カレンダーに復活し、ダブルヘダーがいずれも激戦となって好評だったザ・ミルウォーキー・マイルでのインディーカー・レース。今年は1レースのみの開催となったが、グランド・スタンドをほぼ満員とするほど多くのファンが集まり、その前で素晴らしいレースが繰り広げられた。

 フラットな1マイル・オーヴァルを250周して争われるレースで輝いたのは二人。アレックス・パロウ(チップ・ガナッシ・レーシング/ホンダ)とクリスチャン・ラスムッセン(エド・カーペンター・レーシング/シヴォレー)だった。

 パロウはポール・ポジションからレースの大半をリード。その走りはライヴァル勢を完全に凌駕しており、250周のうちの199周でリード・ラップを記録した。クリーン・エアで速く、トラフィックに追いついてからの処理でも抜きん出た走りを延々と続け、2025年チャンピオンはショート・オーヴァルでも完全にトップ・レヴェルのパフォーマンスを発揮できるドライヴァーとなっていることを世に強くアピールしていた。3位でゴールしたスコット・マクロクリン(チーム・ペンスキー/シヴォレー)は、「今日のアレックスは、トラフィックをパスして行くという点で自分より少し優れていた」とコメントしていたが、その差は”少し”なんてものではなかった。予選2位だったデイヴィッド・マルーカス(AJ・フォイト・エンタープライゼス/シヴォレー)からトップの座を奪い返した後の10周で2秒以上、予選4位からサード・スティントで2番手に浮上して来たマクロクリンに対しても、トラフィックを掻い潜って行くバトル5秒を上回る大量リードを突き付けて見せた。


 パロウはまだショート・オーヴァルで多くの実績を残して来ておらず、それがあたかも彼のウィーク・ポイントであるかのように言う者もいる中、今日のミルウォーキーでは、もはやインディーカー・シリーズのライヴァルたちは、しばらく彼に太刀打ちできないんじゃないか、と考えられるぐらいの段違いのパフォーマンスをパロウは見せつけた。


残り40周を切ったところでの小雨=イエローでトップ3はステイ・アウト


 しかし、それでも勝てなかった。そこがレースの難しさだ。パロウの手から勝利がこぼれ落ちたのは、短時間の小雨によってだった。残り周回数が40周を切ったところでフル・コース・コーションが出されると、パロウ、マクロクリン、そしてジョセフ・ニューガーデン(チーム・ペンスキー/シヴォレー)のトップ3がステイ・アウトし、4番手のパト・オーワード(アロウ・マクラーレン/シヴォレー)以下がピットへ殺到した。トップを行くパロウたちには、優勝に近いポジションを手放してまでピットへと向かう作戦は採用しにくかった。それに対して、パロウにも、マクロクリンにもまったく対抗ができていなかった面々は、一発逆転に必要なフレッシュ・タイヤを求めてピットに向かってステアリングを切った。


 ゴールまで29周でグリーン・フラッグが振られると、パロウは後続を突き放しにかかった。周回遅れがマクロクリンとの間に2台いたことで、パロウはまんまと差を広げ流ことに成功した。


ニュー・タイヤを得たラスムッセン、驚異的ドライヴィングでポジション・アップ


 その一方で、フレッシュ・タイヤを手にしたオーワード以下は、ここから激しいポジション争いを開始した。ここで驚くべき走りを見せたのがラスムッセンだった。ゲイトウェイやアイオワでも見せて来た、素晴らしいカー・コントロールによる攻撃的な走りが展開された。リスタート時の彼のポジションは7番手だったラスムッセンだったが、リスタートでまだそんなにオーヴァルでスピードを発揮できていない同朋のクリスチャン・ルンドガールド(アロウ・マクラーレン/シヴォレー)をパスし、そこからの3周では、ショート・オーヴァルですでに実績を挙げており、その走りっぷりにも高い評価を得ているオーワードを簡単に仕留め、その勢いのままチームメイトのアレクサンダー・ロッシ(エド・カーペンター・レーシング/シヴォレー)も豪快なサイド・バイ・サイドのバトルの末に抜き去った。攻撃の手を休めない彼は、次の227周目にはニューガーデンをパスし、230周目にマクロクリンも攻略した。


225周目、パロウの抵抗及ばずラスムッセンがトップに!


 残るは1秒7ほど先を行くトップのパロウだけとなった。ここからのラスムッセンは、1周につきコンマ3秒もパロウより速く走った。パロウのタイヤはもう20周以上をフル・スピードでこなして来ているもので、ラスムッセンのタイヤは10周以上も新しかった。その上、ECRのデンマーク人ドライヴァーがゾーンに入っていたのは間違いなく、233周目にはこのレースのファステスト・ラップを記録し、ついにパロウとの差を1秒以下にまで縮めて見せた。


 そこからアタックすること2周、パロウは敢えてインサイドのラインを採り、コーナー立ち上がりで相手をアウト側の壁ギリギリまで押し込む巧みな走りを見せたが、自分のタイヤが持つグリップに100パーセントの自信を持って攻め続けるラスムッセンは見事にマシンをコントロールし切り、235周目、このレースで初めてトップに立った。

 パロウは相手に食い下がり、初勝利への逃げを打とうとする相手はバックマーカーのオーヴァーテイクでリスクを冒し続けたが、そこで接触などのミスをすることはなく、チャンピオンに1秒9の差をつけて、ラスムッセンはキャリ初勝利のチェッカード・フラッグを受けた。大歓声でスタンドのファンは彼を迎え、それに応えるようにラスムッセンはスピン・ターンでもうもう白煙を上げた。


ステイ・アウト組はおろか、ニュータイヤのドライヴァーも寄せ付けないラスムッセン

「急激にマシンがスナップする感覚はあったが、それに慣れてしまった!」


 ラスムッセンの勝因は、自らのドライヴィングに対する揺るぎない自信、限界ギリギリの走りを続けることを可能にするカー・コントロールと集中力の高さ、勝利に対する並々ならぬ意欲……といったところだろうか。彼はオーヴァルの壁を全く恐れていない。”自分がそれにヒットすることなど有り得ない”と考えているからだ。「オーヴァーステア気味のマシンで走り始め、少しセッティングを変えたけれど、その後も急激にマシンがスナップするぐらいの感覚があって、でもそれにも慣れてしまったというか、麻痺しちゃって……」と彼はマシンやコースとの格闘をまったく苦にしていなかった。そういうレースを当たり前のことのように戦い続ける能力がラスムッセンには備わっているようだ。


 213周目のピット・ストップでは、トップ3以外のリード・ラップにいたドライヴァー全員がフレッシュ・タイヤを装着したが、その集団から抜け出し、ペンスキー勢をパスしてパロウに襲い掛かることができたのはラスムッセンだけだった。オーワードも、ロッシも、スコット・ディクソン(チップ・ガナッシ・レーシング/ホンダ)もコルトン・ハータ(アンドレッティ・グローバル・ウィズ・カーブ・アガジェニアン/ホンダ)もできなかった走りを、ラスムッセンだけが実現していた。オーヴァル・エキスパートだったエド・カーペンターが見込んだ通りのパフォーマンスを、インディーカー参戦2年目の25歳のドライヴァーは発揮。2023年のルンドガールド(当時はレイホール・レターマン・ラニガン・レーシング/ホンダ)以来となるファースト・タイム・ウィナーが誕生した。興味深いことに、最新のウィナー2人はどちらもデンマーク出身だ。


 ラスムッセンは2023年のインディーNXTチャンピオン。参戦2シーズン目にして初勝利に手を届かせた。デビューから30戦目にしての栄冠だ。ポール・ポジション獲得より前に初勝利を達成した。インディーNXT出身で2シーズン目にして勝つのは、2021年チャンピオンのカイル・カークウッド以来だ。


 ごく僅かの雨がパロウのシーズン9勝目を阻み、ラスムッセンの初勝利、エド・カーペンター・レーシング/シヴォレーにとっては2021年のリヌス・ヴィーケイによるもの以来の優勝が達成された。

 

喜びを語るラスムッセン「自分自身を完全にコントロール下に置いていた

アグレッシヴな走りが身上だが、アグレッシヴすぎるドライヴァーではないつもりだ」


 「素晴らしい1日になった。僕らのニュー・タイヤでの速さは別格だった。新しいタイヤでの走りで明確な差を持っていた。アレックス(・パロウ)をパスしたのも、その前にあった何台かのバトルでも、自分はマシンと自分自身を完全にコントロール下に置いていた。僕はアグレッシヴなドライヴィングが身上。アグレッシヴ過ぎるというドライヴァーではないつもりだ。アグレッシヴだと言われることが多いけれど、全然気にしていない。この勢いを保ち続けて行きたい」とラスムッセンは勝利の喜びを語った。


 シヴォレーは今シーズン4勝目を、マクラーレン、ペンスキーに続く3チーム目によって記録した。しかも、今日のミルウォーキーでの彼らは、トップ10の7スポット=1、3、4、5、6、7、8位を独占した。マクロクリンは苦しい時期を乗り越えつつあり、ニューガーデンも最後の最後でロッシとの接触がなければ、トップ5でのゴールが可能だったかもしれない(接触後のセイヴは見事だった)=7位フィニッシュ。

 ラスムッセンの勝利の影に隠れる形とはなっているが、ロッシの4位フィニッシュも素晴らしいパフォーマンスだった。2回目のピット・ストップでフロント・タイヤ・チェンジャーのエア・レンチが故障し、1周遅れに陥りながら、そこから挽回して8位フィニッシュしたマルーカスの走りも賞賛に値する。彼のチームメイトのサンティーノ・フェルッチは今回は完全に不発で、予選が23位で、レースでは奮闘するも14位まで上がるのがやっとだったが……。


 ホンダ勢はパロウが2位で表彰台に上ったものの、その次がディクソンによる9位と、マーカス・アームストロング(メイヤー・シャンク・レーシング・ウィズ・カーブ・アガジェニアン/ホンダ)の10位だった。アームストロングは11回目のトップ10入りと、高い安定感を今シーズンは見せている。

 アンドレッティ・グローバル勢は、ハータが24番手スタートから一時は6番手までポイション・ゲインしていたが、最後のフレッシュ・タイヤでのバトルで勝ち上がって行けず、11位フィニッシュ。カイル・カークウッドは、そのすぐ後ろの12位でのゴールとなった。ショート・オーヴァルを得意とするコナー・デイリー(フンコス・ホリンジャー・レーシング/シヴォレー)は、スタート直後にアウトサイド・レーンを使っての牛蒡抜きを見せるなどしてスタンドを沸かせていたが、13位でのゴールにとどまった。


2位にも納得のパロウ「今日は自分にとってのベストのオーヴァル・レース」


 パロウは、「もちろん勝ちたかったけれど、あの状況でピットに入るという判断はしにくい。自分がピットに入れば、逆に入らない人も出てくる。そこで落とした順位を挽回し、トップに再び立てる保証はない」と語り、雨によるイエローについても、「雨が降っているのは見えていた。雨を感じたとしたら、その直後にはクラッシュしている。オーヴァル・レースとはそういうものなので、イエローを出す判断は間違っていなかった」とコメント。他を圧倒する走りについては、「今日は自分にとってベストのオーヴァル・レースになっていた。こういうレースを戦えたことが大変喜ばしい。これは自分にとって、ミルウォーキーだけで可能な走りなのか、他のコースに今後行っても再現ができるものなのかわからないけれどね」と話していた。


 ルーキー・オヴ・ザ・イヤー争いは、ルイ・フォスター(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング/ホンダ)が17位、ロバート・シュウォーツマン(プレマ・レーシング/シヴォレー)が18位でゴールし、差が6点から8点に広がった状態で最終戦が迎えられることになった。


 今日のレースでは、クラッシュしたドライヴァーも二人だった。1周目のターン4で単独スピンしたノーラン・シーゲル(アロウ・マクラーレン/シヴォレー)と、自らのピット・アウト直後に先行するキフィン・シンプソン(チップ・ガナッシ・レーシング/ホンダ)との車間を見誤って接近し過ぎ、コントロールを失ったウィル・パワー(チーム・ペンスキー/シヴォレー)だ。ポートランドで改めて存在感を見せつけていたパワーだったが、ミルウォーキーでのアクシデントはヴェテランらしくない迂闊なものと映った。ペンスキー残留はあるのか?


 さぁ、もう残すは最終戦のナッシュヴィルのみ。今年最後のチャンスをものにするのは誰か。今シーズン未勝利のトップ・コンテンダーたちの中で有力なのは、ハータ(ナッシュヴィルのディフェンディング・ウィナー)、マクロクリン、ニューガーデン。今年すでに勝っているメンバーで競争力を発揮しそうなのは、パロウ、ディクソン、オーワード、そしてもちろん、ラスムッセンがここに入る。ロッシ、マルーカス、デイリー、フェリックス・ローゼンクヴィスト(メイヤー・シャンク・レーシング・ウィズ・カーブ・アガジェニアン/ホンダ)、ヴィーケイらの走りにも期待したい。


以上


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