2011年6月22日水曜日

2011 INDYCAR 佐藤琢磨コメント47 R7 ミルウォーキー225 「もっともっと、父にはたくさんレースを見せたかった」

父を亡くした直後のミルウォーキー

 テキサスでの第6戦が終わった後、佐藤琢磨が日本へ帰国していたことは知らなかった。ミルウォーキー入りしたところで、関係者から彼のお父様が亡くなられたと聞いた。帰国をしていたことで、琢磨は父上の最期を看取ることができたという。
 金曜日はテストセッション。走行を終えた私は琢磨のピットへと向かった。コメントをもらうためだ。しかし、この時の自分は、彼の前にどのような態度で現われるべきなのか、どのように接するべきなのかを考えていなかった。お悔やみの言葉を最初にかけることもせず、スッと質問を投げかけてしまった。琢磨は一瞬詰まった後に答えをくれたが、いったんマイクの前から離れて行った。涙を浮かべていたようだった。取材する側がちゃんとした心構えになっていなかったことを、彼は虚しく感じたのだと思う。それでも琢磨はインタビューを受けるために戻って来てくれた。
 最愛の家族を亡くしたばかりの人間に、私は何の言葉もかけることができなかった。そっとしておいてあげたいという考えがあったのは事実だし、彼がどこまで話す気持ちがあるのかを量りかねていたということもあった。悲しさをえぐり出すような質問をすべきではないとも思っていた。しかし結局は、何も知らないかのように振舞っている方が楽だったということ。私はそこへ逃げ込もうとしていた。
 自分がどうした態度で取材を行うべきなのか。それからジックリ考えた。そして、レース後に自分の言葉で真正面から、お父様の思い出や、お父様に対する気持ちの、彼が我々と分かち合ってくれるものがあれば聞いてみようと思った。


Jack Amano(以下――):先日亡くなられたお父様は、琢磨選手のレース活動を強くサポートしてくれていたと聞いています。

佐藤琢磨:はい。高校時代に自転車をやっている時に、将来はレースの道に進みたいって考えていたんですが、大学に行くよう父が助言をしてくれました。どちらの道にでも行ける状況にして……というように親父がサポートをしてくれた。それはすごく心強かったですね。父はレースには全然詳しくない人でしたけれど、僕がレースに世界に入るって言った時には精一杯応援をしてくれて、それからはレースのことを母とふたりでいっぱい勉強して、最大の応援団というか、理解者となってくれていました。本当に何度もレースに来てくれていましたし、感謝しています。

――世界のトップで戦っている息子というのは、お父様にとっても大きな誇りだったと思います。

佐藤琢磨:でも、僕は父に、やっぱりトップフォーミュラに上がってからトップを走る姿を見せたかったし、もっともっとたくさんレースを見せたかったというのが本音です。最後は、えーっと……先々週かな? テキサスのレースに向けてアメリカへと戻る時に、親父はしゃべるのが難しくなってたんですけど、でも「自信ある?」って俺に聞いてきて、すごく満足気な表情だったんです。それが忘れられないですね。テキサスとミルウォーキー、そしてアイオワは3連戦になるので、「絶対に良い成績を挙げる」って、「親父も頑張って!」と言って日本を後にしたので、3連戦はまだアイオワが残っていますから、そこで自己ベストを更新したいです。

 私の心無い2日間の対応を許してくれ、決勝日には素直な気持ちを語ってくれた琢磨には、深く感謝したい。涙を堪えながら、彼は心のうちを明かしてくれた。少し遠くを見るような表情をしながら話していたのは、お父様の笑顔や、一緒に楽しく過ごした時を思い浮かべていたからだと思う。アイオワに向けた話でコメントを締め括る時の彼は、とても晴れやかな笑顔を見せていた。

4 件のコメント:

  1. 知りませんでした。
    琢磨のプロフェッショナルに敬意を表するとともに、心からお悔やみを申し上げます。

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  2. 抑えたトーンでレース後に応じる琢磨君の声を聞き、そしてインタビューを読ませていただき、御父様の存在がどれほど大きかったのか改めて感じています。取材するプロとして個人として、揺れる心情を素直に語っていただきこちらも心に響きました。ありがとうございます。

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  3. Twitterにて、ものすごい勢いで流れていたので、琢磨さんのお父さんの件を知ることは避けられない状況でした。
    そのあり様は、どことなく不謹慎というか、違和感を感じていました。
    アマノさんのように琢磨さんと面識および信頼関係がある上で、そういう情報を管理することは真っ当なことかと思います。
    「最愛の家族を亡くしたばかりの人間を、そっとしてあげたい」という考えなどをはじめ、琢磨さんとのやりとりに関するこの投稿を見て少し安心しました。

    匿名ですみません。

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  4. Rack さん、beach さん、匿名 さん、ありがとうございます。
    どのように、お伝えするのがベストなのか答がなかなか見つからない状態ですが、こうして、皆さんの温かいコメントをいただけて、我々も救われた気持ちです。一番、悲しいのは琢磨選手だと思います。精一杯応援することで、少しでも彼の力になれれば、と感じています。(更新係)

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