2013年8月27日火曜日

2013 INDYCARレポート 第15戦ソノマ:ディクソン ペナルティ問題考察 ―その2 スポーツマンシップはどこに行った?――

「あそこまで露骨なやり方は見たことがない」

 ソノマでのレース後、スコット・ディクソン(ターゲット・チップ・ガナッシ・レーシング)はインディーカーの裁定に憤慨し、ビデオで件のアクシデントの状況を確認した後、ストレートに意見を述べた。
 「彼は僕らのマシンに向って真っすぐ歩いて来たように見える。僕らより前に停止していたマシンが見えていたが、彼は僕らに向って、意図を持って歩いて来ていた。あそこまで露骨なヤリ方は、もうかなり長いこと見た記憶がない。ほとんどのピット・クルーは、他チームのマシンに対しても道を開けようと努力をしている。僕らのマシンはレースを通して速かった。彼らがあのような手段に出ても勝ちたかったのだとしたら、それはとても悪いことであり、不快に感ずる。僕はまっすぐピット・アウトできる状況にあり、彼は僕らに向って歩いて来た。裁定を下す人々、すなわちレース・コントロールで働く人々にも世間は注目をして欲しい。彼らがどんな説明を聞かせてくれるのか楽しみだ。近頃のインディーカーは、トラブルに対する裁定の安定感がまったくなっていない」。



なぜ、パワーのクルーはタイヤをディクソン側に突き出して歩いていたのか?

 ダリオ・フランキッティ(ターゲット・チップ・ガナッシ・レーシング)は、「もしみんながあのようなことをピット・レーンでし始めたら、とても危険になる。僕らの間には常にルールがあった。チャンピオンシップで争っている相手が誰であれ、ピットレーンで働く者はプロとしての礼儀を持っていた。今日はそれがまったく存在していなかった。失望した」と語った。
 インディーカー・レースの行われる多くのサーキットでピット・ボックスの小ささが指摘されて来ている。出場チームはそれを理解し、他チームの邪魔をしないようにピット・クルーたち全員が努力をしてきている。交換前のタイヤを置くタイミングと置き方、交換後のタイヤの置き場所などに常に気を使っていた。しかし、今回のパワーのクルーは、タイヤをディクソン側に突き出して歩いた。そこに意図があったのは明らかだ。


狭いソノマのピットボックス、他人のピットボックスを通過することは避けられるのか?

 インディーカーによれば、ディクソンのマシンとパワーのクルーが接触したのはパワーのピットボックス内だったという。しかし、その事実だけをもってディクソンにペナルティを課す理由としているのには納得が行きにくい。フェアでもなかっただろう。他人のピットボックスに入ってしまうのは、誰もが行っていることだ。ソノマのピットボックスは小さく、他のピットを通過することはまったく避けようのない現実だったからだ。

フランキッティに反論するロジャー・ペンスキー、その言い分とは?

 レース後、チーム・ペンスキーのオーナーであるロジャー・ペンスキーが記者会見に出席した。シリーズ最強のプロパガンダ軍団が行動を開始したというワケだ。
 「みんなビデオ・テープを見るべきだ。私たちのクルーはタイヤを交換し、タイヤを拾い上げてマシンの後方へと走っていった。彼はタイヤを突き出してはいなかった。他の人の邪魔になる場所にタイヤを置いたままにしたワケでもなかった」と、彼はフランキッティ、そして会見場の記者たちに反論した。「ダリオをここに連れて来て欲しい。彼のコメントは論点がズレている」とまでペンスキーは言った。しかし、ペンスキーこそビデオテープをよく見るべきだ。パワーのクルーはタイヤをディクソン側に突き出していた。
 「誰かがマシンにぶつかられた。宙に飛び上がった。9号車が私たちのクルーに近づき過ぎていたのは明らかだ。だから事故は起きた」ともペンスキーは言っていた。ほぉら、始まった。論点のすり替えだ。クルーが負傷したことは大きな問題だが、その前に、なぜそういう事態に陥ったのかが厳格に解明されるべきだ。そして、その真相は、9号車がクルーに近づき過ぎたからではなく、12号車のクルーが9号車に不必要に近づき過ぎた、というもののはずだ。今回の会見でロジャー・ペンスキーが見せた、質問した記者を脅かすようなコメントぶりはジェントルマンでなく、事件を後味の更に悪いものにしていた。レース後のペンスキー陣営は、自分たちを正当化すべくストラテジックにコメントを重ねていった。巧みに問題点をすり替えつつ……。


アメリカのテレビ中継はインディカーの裁定とペンスキーを非難

 しかし現実は、チーム・ペンスキーのクルーが一線を越えてしまったということに尽きる。まさかマシンとぶつかる事態にまで発展すると当のクルーは考えていなかったのだろう。しかし、彼がディクソンのピットアウトを難しくし、自分たちのドライバーに少しでも優位な状況を作り出そうとしていたのは間違いない。そして、そんな彼の姑息でアンフェアな行為がソノマでの優勝争い、ひいては今年のチャンピオン争いにまで悪影響を与えることになった。
 今回の事件が見る者に非常に不快な印象を与えるのは、スポーツマンシップの欠如が明白だったからだ。幸いだったのは、アメリカでのライブのテレビ放送では、コメンテイターたちがインディーカーの裁定におおいに驚き、それが間違っていると指摘し、嘆き、ディクソンを擁護し、ペンスキーのクルーの行動を強く非難していた点。あの放送でレース観戦をした人々の多くは、今回の一件で誰が悪かったのか、おそらく正しく認識できたことと思う。


クルーの安全は重要だが、事故の本当の原因はどこにあるのか?

 パワー(今回は何も悪くない)はレース後、「彼はいつも通りの仕事をしていただけ」と自らのクルーを擁護した。しかし、それは真実と違う。あれだけタイトなピットで、パワーがピットアウトする前にクルーがタイヤを持って移動する必要はない。あの状況では、ディクソンのピットアウトを邪魔しないように反対側(パワーのフロント・タイヤ側)にタイヤを移すのが常識的な動きだ。このような意図的なコメントを次々と発し、間違った事実を世間に定着させて行くペンスキーの戦略は、着々と遂行されて行っていた。
 クルーが怪我をしたことが裁定に過大に影響している点もおかしい(ペンスキー陣営のプロパガンダはここをポイントにして進められて行った)。クルーの安全はもちろん極めて重要だが、危険を作り出したのは怪我をしたクルー自身だった。
 かくして、人の好いディクソンは罪なき犠牲者となった。その代償が2013年のチャンピオンシップになるとしたら、あまりにも酷い話だ。彼にはパワーのクルーにぶつかる気などサラサラなかった。ケガをさせるつもりなど皆無だった。彼は相手が、普段と同じように避けてくれると信じていた。
 12号車のクルーは、フェアな真剣勝負の場で悪魔の囁きを受け入れ、パワーの勝利、つまりは自分たちのチームの勝利に泥を塗ってしまった。二度と起こって欲しくない事件だ。

以上

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