2014年4月4日金曜日

2014 INDYCAR レースアナリシス 第1戦セント・ピーターズバーグ:2014年開幕戦のタイヤ戦略


ブラックタイヤのパフォーマンスに泣いた開幕戦の琢磨 Photo:INDYCAR (Bret Kelley)
 プライマリータイヤでのスタートはマルコ・アンドレッティのみ
 決勝日のウォーム・アップが終わった後、インディーカーは各チームのスタートタイヤを発表した。22台のうちでオルタネートタイヤ=ソフト・コンパウンドのレッドタイヤを選んだのが15人と完全に主流派で、プライマリータイヤ=ハード・コンパウンドは7人だけだった。
 フロントロウ外側のトニー・カナーン(ターゲット・チップ・ガナッシ・レーシング)がブラックか……と驚いていたら、これは時間内申請をしなかったためのペナルティと欄外に記述アリ。ウォーム・アップ終了後30分以内の届け出をミスったのだな。
 もう一人、上位でプライマリー発進を選んだのはマルコ・アンドレッティ(アンドレッティ・オートスポート)。Q2をブラックで走ったので、彼より上位グリッドの5人よりレッドが1セット多くある。それを活かす作戦ということらしい……が、これはレースがレッドが有利のコンディションになった場合。去年のレースではブラックの方がスティントを通しての安定感があり、戦闘力は高かった。

 

 王道のタイヤチョイスで臨んだパワーが開幕戦を制する Photo:INDYCAR (Bret Kelley)
 琢磨、スタート直前にユーズドレッドを新品レッドに交換 
 いざレースがスタート……となるとカナーンがレッド、それもフレッシュレッドを装着していることが判明。「申告と違うじゃないか!」と思ったが、これはインディーカーとチームのコミュニケーション・ミスで、申請はルールどおりに行われていたってコトのよう。事後説明はなかったが、そういう例は前にもあった。
 これで合点が行ったのが、スタート前の14号車の動向だった。多くのマシンがダミー・グリッドに向けて移動をし終えようという頃、佐藤琢磨(AJ・フォイト・エンタープライゼス)のマシンはまだチームのピットにいて、移動直前にユーズドのレッドタイヤから新品のレッドへと交換された。隣りからスタートするカナーンと同じ新品レッドを使い、「スタートからトップを守り、レースのイニシアチブを取る」というのが琢磨陣営の意向だったのだ。
 琢磨のすぐ後ろ、セカンドロウの俊足二人、ライアン・ハンター-レイ(アンドレッティ・オートスポート)とウィル・パワー(チーム・ペンスキー)は同じレッドでもユーズドを装着してダミー・グリッドについていた。去年もそうだったが、アンドレッティ・オートスポート、特にハンター-レイ陣営のタイヤチョイスは成功率が高い。マルコのブラック装着は、プラクティスでタイムが出せていなかったための奇襲作戦的意味合いもあるとは思うが……との印象でレースはスタートした。

新品レッドの優位性を最初のスティントで証明したが…… 

 レース序盤、琢磨はPPからフレッシュレッドでトップを走行。2位以下を少しずつ引き離してい行った。完全にレースをコントロール下に置いていた。燃費も良かったようで、最初のピットは27周目。琢磨より長くは走ったのはエリオ・カストロネベス(チーム・ペンスキー)だけで、彼は28周目のピットだった。
 グリップが上がって行っている路面、その温度といったコンディションは新品レッド、そして琢磨のマシンのセッティングにマッチしていた。スタートで2位に上がって来ていたハンター-レイだったが、琢磨はユーズド・レッドで走る彼に6秒の差をつけた。
 ところが、第2スティントにブラックを選ぶと、琢磨のペースが上がらなくなった。自身のファステスト・ラップがレース序盤の5周目になったコトからも、決勝レースでのコース・コンディションは琢磨のマシン・セッティングから離れて行ってしまったことがわかる。
 トップに立ったのはピットストップを挟んでハンター-レイをパスして来たパワーだった。琢磨は2位で粘り続け、パワーが2回目のピットに向った後にトップに返り咲いた。しかし、2回目のピットストップからコースに戻ると順位は5位に下がっていた。59周目のランニング・オーダーは、1位=パワー、2位=エリオ、3位=ハンター-レイ、4位=マイク・コンウェイ(エド・カーペンター・レーシング)だった。

カストロネベス、他車がブラックの中盤に新品レッドで上位に浮上 

 このスティントではまたタイヤチョイスに違いが出た。10番手スタートながら2番手まで順位を上げて来ていたエリオは、Q2での敗退なので新品のレッドが2セットあり、その2セット目をここで装着したのだ。
 コンウェイはエリオより更に後ろの11番手スタートだったが、序盤のピットストップ2回を早めに行う作戦と、3スティント目に2セット目のフレッシュレッドを投入する作戦のコンビネーションで上位進出して来た。空いているコースをハイペースで疾走、イエローが出ない展開も味方した。

 

パワー、最終スティントに満を持して新品レッド投入
 
 そして最後のピットストップ……・トップを守り続けるパワーは、最後に残しておいたフレッシュ・レッドを装着した。ハンター-レイも同じだった。2位につけていたエリオは、ここでユーズド・レッドを履いた。もう彼にはそれしか残されていなかったのだ。すぐ前のスティントに新品のレッドを投入、チームメイトを抜いてトップに出ることを狙ったためだ。それは叶わなかったが……。

レース中盤、ブラックからブラックへの交換を行うパワー Photo:INDYCAR (Chris Jones)
ユーズドレッド→ブラック連投→フレッシュレッドが開幕戦の正解 
 今年の開幕戦、そして、ストリートでの最初のレース、タイヤ・チョイスの正解は、結果からするとユーズド・レッドでのスタート、中盤はブラック連投で凌ぎ、最後にフレッシュ・レッドを投入……というものになった。優勝したパワー、2位のハンター-レイがこのタイヤ戦略。エリオはユーズド・レッドだった不利のためか、終盤にハンター-レイの先行を許した。
 昨年のようにブラックが有利ということでもなかった。ターゲット・チップ・ガナッシ・レーシングはそうなると読んだからこそ、2人揃ってスタートにフレッシュ・レッドを投入。レースの大半をブラックで戦う作戦を採用したのだったが、ディクソン4位、カナーン6位という結果に終わった。2台揃ってトップ6は悪くない結果だが、彼らにとっては満足の行くものではないだろう。
 

新品レッド2セット投入で帳尻を合わせたパジェノーだったが……

 
 ターゲット・コンビの間に割って入る5位フィニッシュを14番手スタートからシモン・パジェノー(シュミット・ピーターソン・ハミルトン・モータースポーツ)が達成。彼はターゲットと真逆のタイヤ戦略だった。スタートがブラックで、15周と短いスティントにしてピットへ。そこからは全部レッドだった。新品2セットを先に投入してポジション・アップを重ね、路面ももう良くなっているだろうという終盤にユーズドを使ったのだ。中団スタートからの上位フィニッシュ。その作戦も走りも見事だったが、その前に彼ら予選を何とかしないと。今回もQ1敗退と結果が悪過ぎた。幾ら2回の赤旗があったとはいえ、だ。シリーズ・ランキング3位になったパジェノーは、Q3の常連になっていておかしくないはずだが、去年はロード系13戦で4回しか予選ファイナルに進めていなかった。

 次戦トヨタ・グランプリ・オブ・ロング・ビーチもストリート・レース。今年はストリート全戦で、ブラックもレッドもまったく同一スペックのファイアストンタイヤが使われる。フロリダとカリフォルニアでは気候が明らかに違うし、コースの舗装やグリップ力も異なる。タイヤ戦略は今回と違ったものになるだろうか。

以上

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