2011年3月29日火曜日

2011 INDYCAR R1セント・ピーターズバーグ レースアナリシス 「新レギュレーションがもたらした超ハイレベルなタイヤタクティクス」

4台のみだったブラックタイヤでの決勝スタート 

 ウォームアップセッションの後に各エントラントはスタート時の使用タイヤを申告しなくてはならない。今回のレースでは、ほぼ全員がオルタネート(=ソフトコンパウンド=レッド)を選んでいた。25台のうちでプライマリー(=ハードコンパウンド=ブラック)にしたのは5人だけで、そのうちの1人、セバスチャン・ボーデー(デイル・コイン・レーシング)はマシン修復が間に合わずにDNSとなったから、アナ・ベアトリス(ドレイヤー&レインボールド・レーシング)、EJ・ビソ(KVレーシング・テクノロジー・ロータス)、ジェイムズ・ジェイクス(デイル・コイン・レーシング)、JR・ヒルデブランド(パンサー・レーシング)の4人だけがブラックでスタートを切ることとなった。
1回目のピットストップでカナーンは中古のレッドに交換してピットアウトする。Photo:INDYCAR(Dana Garrett)

ただ1人、レッド→中古レッドの選択でカナーンは表彰台獲得 

 実際にレースが始まって、レッドを選択したうち17人が新品のレッドでスタートしたと判明。そして、1回目と2回目のピットストップの間、つまりレース中盤をブラックで戦うドライバーがそのほとんどだった。トップ10まででフィニッシュした中で唯一このパターンでなかったのがトニー・カナーン(KVレーシング・テクノロジー・ロータス)で、2番目に投入したのは中古のレッドだった。
 新品のレッドでドライバーたちはスタートから34周以上を走った。フルコースコーションも序盤に長くあった。

 レース中盤は、ブラックで30周プラスアルファを走るドライバーが主流派だった。レースはかなり膠着状態に陥っていた。
 カナーンはレッドからレッドへと繋いだ。当然、終盤はブラックで行かねばならない。ある意味ではギャンブルだが、レッド装着が効果を発揮して彼はシモーナ・デ・シルベストロ(HVMレーシング)をパス。さらにはパワーにアタックを仕掛けることまでできた。パワー攻略はならなかったが、カナーンは少なくともシモーナの前に出ることになった。

思いのほか長かったレッドタイヤのライフ

 そしてレースは終盤へ。トップ10フィニッシュをしたうちの4人が最終スティントに中古のレッドを選んだ。予選の第2セグメントに進めなかったドライバーたちは、新品のレッドをここでも投入できた。予選で1セットしかレッドを使えなかったからだ。後方グリッドからスタートする面々には、レースでレッドを2セットを使えるアドバンテージが与えられているワケである。もちろん、それはレッドの方が速いタイムを出せ、持ちも長いという条件での優位である。
 さらには、レッドの能力を発揮させるセッティングを用意できることも必要になる。また、まれにだがレッドのライフが短かいケースもある。それは路面のコンディションにも影響を受けるので、レースデイの天候なども関わってくる。とにかく、常にレッドが有利とは限らないのだ。

 今回はレッドが有利だった。ファイアストンから供給されたレッドはライフがブラックと同じように長かった。チームやドライバーたちが想定、予測していたよりも長かったように思う。優勝したフランキッティ、2位でゴールしたパワー、どちらも最後のチョイスは中古のレッドだったが、彼らは最終スティントの30周弱を、実に安定したペースで走り続けていた。もちろん、フランキッティは悠々と後方にスペースを持って逃げ続けていたし、パワーもカナーンからの脅威は終盤になって弱まっていたので、タイヤの磨耗に神経を使い、ダメージを最小限に抑えながら速く走ろうと心がけていた。それが安定したタイムを長く保てた理由でもあるだろうが……。
 3位でゴールしたカナーンは、最終スティントをブラックの新品で走った。彼はテールに食らい着いてきたシモーナを封じ込め、何とかゴールできた。最後のハード選択を間違いだったとは断定できない。中盤にレッドを投じなければシモーナを抜くこともできなかったかもしれないからだ。しかし、カナーンが上位の二人と同じソフト装着という作戦で戦えていたら、パワーとのバトルが最後まで続き、それもまたエキサイティングなものになったかもしれない。

琢磨はハンドリングを重視し最終スティントでブラックを選択

 佐藤琢磨はレッド――ブラック――ブラックというタイヤの使い方によって、5位でゴールした。琢磨はゴール前、中古レッド装着のアレックス・タグリアーニ(サム・シュミット・モータースポーツ)に攻撃されていた。その背後にはラファエル・マトス(AFSレーシング)も迫っていた。
 中古のレッドを選んでいたら、琢磨はもっと楽に5位を確保できていただろうか? あるいは、前を行くシモーナにアタックができいただろうか? 断言はできないが、そうであった可能性は高い。ピットもレッドかブラックかを悩んでいた。琢磨にリクエストを尋ね、「レッドを」という答えが返ってきた上、カナーンからも「レッドのパフォーマンスは良い」というフィードバックを得ていたようだが、最終的にブラックで行くことになった。レース序盤の琢磨がレッド装着でハンドリングに苦しみ、ブラックで走った中盤スティントに安定したラップを刻めていたことを考慮しての決断だろう。

 琢磨のピットではレッドが1回はピットウォール上にセットされたが、それはブラックへと入れ替えられた。「今回は何としてもフィニッシュし、トップ5を確保する」という考え方だったのだろう。 去年はシーズン序盤に成績を残せず、KVレーシング・テクノロジーは波に乗れなかった。今年はそうならないよう、開幕戦は慎重に戦ったということだ。
決勝日朝のウォームアップに向かう琢磨のマシン。Photo:INDYCAR(Dan Helrigel)
 琢磨のレッドの状況は、予選の2つのセグメントで1セット目は7周、2セット目では6周を走行。このうちの1セットを決勝日の朝のウォームアップで15周の連続ラップに使用。レースに向けては1セットが決して悪くない状態で残されていた。もちろん、琢磨陣営が決勝用に施したマシンセッティングが、レッドにマッチしてなかった場合は、ゴールを前に順位を下げることになっていただろう。アレックス・タグリアーニ(サム・シュミット・モータースポーツ)と、ラファエル・マトス(AFSレーシング)はすぐ後ろまで迫っていたのだ。

予選から完璧なタイヤの使い方を要求する新レギュレーション

 ロードレース用に2種類のタイヤが供給されるルールは、レースに多面性を持たせ、おもしろくする効果を発揮している。しかし、レースに不安定な要素をもたらす事態にもなっている。
 今年からの新ルール=予選の各セグメントで1種類のタイヤを1セットしか使えない=は、ドライバーたちに新たな、そして非常に難しい課題を与えている。速いタイムを出してひとつでも上位のグリッドを手に入れる……といった単純な戦い方ではもうダメなのだ。 レースの究極の目的である勝利を目指すなら、予選の戦い方、レッドの使用法はとても細かな部分までを完璧に行わねばならない。アタックを行うためにピットを後にするタイミングは重要だし、タイヤの暖め方にも細心の注意を払わなくてはならない。そして、1~2周のアタックを集中力を最大限に発揮してミスなく完了させるのだ。2セットのレッドになるべくダメージを与えず、できるだけ少ないラップ数で予選を終える。しかも、できるだけ上位のグリッドを確保する。予選で使ったレッドのうちの少なくとも1セットを決勝に回し、そのパフォーマンスを最大限に引き出す。非常に高度な戦いがトップチームとトップドライバーたちの間では行われているのだ。

0 件のコメント:

コメントを投稿