2011年3月30日水曜日

2011 INDYCAR R1セント・ピーターズバーグ レースアナリシス PART2 「新レギュレーション、ダブル・ファイル・リスタートは是か非か?」 

エキサイティングなレース実現のための2列スタート化

 今年から採用の新ルールのひとつとして、ダブル・ファイル・リスタート(=リスタートの2列化)がある。オーバルでもロードでも、リスタートはレースでのポジション順にイン・アウトと2列に並んでスタートさせるというのだ。昨年までのINDYCARのリスタートは、順位の通りに1列に並んで行っていた。
 新ルール採用の意図は、「接戦の激化」にある。マシン同士の順位間の距離を狭めれば、当然競争は激しさを増す。同時に、アクシデントの起こる危険度も増える。
 ルールは「よりエキサイティングなレースをファンにお届けする!」ために書き換えられた。

スタート直後の1コーナー。この後、マルチクラッシュが発生する。
Photo:INDYCAR(Chris Jones)
アクシデントは1周目の1コーナーで発生したが……

 セント・ピーターズバーグでの開幕戦、アクシデントはスタート直後に起きた。有力ドライバーが何人もその餌食になる派手なヤツが……。まさか1周目の1コーナーを曲がり切る前にスコット・ディクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)、エリオ・カストロネベス(チーム・ペンスキー)、ライアン・ブリスコー(チーム・ペンスキー)、マイク・コンウェイ(アンドレッティ・オートスポート)が優勝戦線から消えるとは! 実に残念なことだ。彼らにはバトルをもっと戦って欲しかった。
 多重アクシデントはリスタートではなく、最初のスタートで起きた。だから新ルールとは関係ない……というワケでは、実はない。新ルール採用に合わせて、最初のスタートもグリーンフラッグが振られて加速を始める場所がコントロールラインにグーンと近いところにされていたからだ。加速を始める時点のスピードも低く押さえられていた。最初のスタートも、リスタートに似たコンディションで行われていた。つまり、新ルールの影響が出たアクシデントだったのだ。

決勝スタートをコントロールラインから俯瞰。マシン同士の間隔の狭さがよくわかる。しかも、今までより低速から急加速して1コーナーに飛び込むので、とてもリスキーだ。
Photo:INDYCAR(LAT)
リスキーなだけでなくアウト側が明らかに不利という欠陥も

 4周目と10周目のリスタートでも、スタート直後の1コーナーでリタイアが出るようなアクシデントは発生しなかった。しかし、小さなイザコザは当然あったし、その先のコーナーでも接触は結構発生していた。それらの原因も、やはりリスタート時にマシン同士の距離が小さくされていることにあると思う。順位間の距離は、去年までよりも何車身も小さくされているのだから、全員にとってチャンスも危険性も増えている。
 レースがエキサイティングになるのは結構だが、クラッシュ多発で走行するマシンがどんどん減ってってしまうのでは本末転倒だ。
 2列スタートはアウト側が明確に不利でもある。アウト側はコースの汚れた部分を走ることになるからだ。今回はレース終盤にリスタートがなかったけれど、もしあったら、タイヤかすも多くなっているはずなので、アウト側はさらなる不利を被っていただろう。
 INDYCARはルールの再考を迫られている。アクシデントの多発は避けるべきだし、アウト側の不利も放置されるべきではない。


今回恩恵を受けたシルベストロは2列スタートに賛同

 17番手スタートから2位までポジションを上げたシモーナ・デ・シルベストロ(HVMレーシング)は、新ルールに対する意見を問われ、「2列スタートは楽しかったし、実際私の順位アップはそれによって可能になっていた。去年までの1列スタートでは、ほぼ何もできなくて“リーダーについていく”ということになっていたから。新ルールはレースをエキサイティングにしていたし、私は楽しめていた」とコメントした。今回実際に2列リスタートの恩恵を受けたし、また、主催者批判とも取られかねないようなコメントは、若いドライバーたちにはなかなか難しいのだ。

インディカー・マシンはNASCARとは違う、と主張するパワー

 一方、ウィル・パワーはズバッと自分の意見を口にして、トニー・カナーンもこれに賛同した。
「新しいルールでのリスタートは成功していなかった。多くのマシンが小さなスペースにギュウギュウ詰めにされるので、もうミスを犯した時のマージンが全然与えられていない。NASCARのマシンのように僕らはブツケ合えないんだ」とパワーはコメントし、「わからないけど、今後もこのような形が続くんだろう。リスタートのたびに誰かがやっつけられる。そうなると思う。私の考えとしては、1列にして加速のタイミングを遅くするっていうのがいいと思う。そうすればオーバーテイクを見ることもできるはずだ。新ルールなど、何かを採用しなかったらオーバーテイクは難しくて、それを無理してトライすると誰かが被害を被るという結果になってしまう」と続けて語った。新方式の提案も彼は行った。
 カナーンも、「2列スタートはファンが求めていることと言われた。ファンが見たいというなら、僕はそれをやればいいと思う。でもウィル(・パワー)が言ったように、INDYCARは誰か他の人がやっていることを真似しようとしていると思う。でも我々のマシンにはバンパーはないし、お互いにぶつけ合うことはできない。予選タイムで15人が1秒以内にいた。そして、リスタートが繰り返された最初の15周、リスタートからの3周以内に何かが起きていた。今回のコースは広かったからまだいい。今後は狭いコースもある。ロングビーチやトロント……よく考えて欲しい。ファンの意見を聞くのは重要だが、レースを良いものにすることも大事だ。スタートから15周もフルコースコーションだなんて、いいレースとはいえない」。

密集したマシンの接近戦の迫力は、確かに見る側からすると魅力的なのだが……。
Photo:INDYCAR(LAT)
NASCAR流の改革を、INDYCARはどこまで消化できるのか?

 NASCARのレースには人気がある。INDYCARは、そもそもその成り立ちからして、オープンホイールのNASCAR版を目指したところがあった。しかし、NASCARが2列スタートなのは、オーバルでのレースばかりだから、という理由もあるだろう。36戦もあって、ロードレースは2戦しかないのだから。ドライバーたちが指摘するとおり、タイヤが露出していないストックカーではバンプし合っても即座に危険なクラッシュ発生……とはならない。インディカー・マシンはホイール同士が触れた途端にかなり危ないことになる。
 開幕目前まで、INDYCARはNASCARのもうひとつのルール、通称“ラッキー・ドッグ”の採用も検討していた。フルコースコーションが起こるたびに周回遅れのトップにいるマシンをリード・ラップに戻すルールだ。より多くのドライバーにチャンスを与える……というのは結構なことにも思えるが、なにがなんでも、人為的に何かをしてまで無理矢理レースをエキサイティングにしようというのはどうなんだろう? 結局INDYCARはこのルールにはゴーサインを出さなかった。

 リスタート方式での真似は、最初のレースではネガティブな部分が目立った。今後は、これを何を変えないまま採用し続けるのか、おもしろさと安全を確保するために変更するのか、INDYCARの腕の見せ所である。第2戦までは1週間しかインターバルがない。今度は常設サーキットのバーバー・モータースポーツ・パークがその舞台と、少々条件は異なる。果たしてルールに手は加えられるだろうか? パワーが提案した以外に、何か妙案はあるのか??

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